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個人事業か法人の選択 法人の設立による節税


【目次】

所得金額が大きくなれば税金が高くなってきますので法人の方が税金が安く有利となりますが、所得金額がそれほど大きくない場合でも、法人では家族従業員に対する給与や家族に対する賃借料・支払利子が認められるのでこれらの給与や家族に対する賃借料などを費用計上できることを考えると、個人事業より法人の方が税務上は有利となります。

1.事業を始める場合の個人か法人かの選択肢

新たに事業を開始する場合には、個人で行うのか、それとも法人で行うのかの選択をしなければなりません。

法人を設立するとした場合でも、
①組織形態を株式会社、合同会社、合名会社又は合資会社のいずれにするか
②資本金をいくらにするのか
③決算月を何月にするのか
④現物出資をするのかしないのか
といったことをが考慮する必要があります。

個人事業か法人かの選択にあたり考慮すべきことを、個人との比較による法人のメリットとデメリットを比較してみます。

2.法人のメリット

法人にすれば、信用が得られやすい、資金が集めやすい、泱算月を自由に選べる、税金対策上有利になるなどのメリットがあります。このうち税務上のメリットの主なものは、次の通りです。

2-1.減価償却

個人事業では、減価償却は強制償却ですので、赤字の時にも償却しなければなりません。

これに対し、法人では、減価償却は任意償却ですので、赤字の時は実は必ずしも償却する必要はなく、償却による減価償却資産の費用化を次期以降に繰り延べることができます。(ただし、銀行からの与信判断上、減価償却をしていないことはマイナスに働く可能性があります。)

2-2.赤字の繰越し

個人事業で青色申告をしている場合、純損失の繰越控除ができるのは3年間です。

これに対し、法人が青色申告をしている場合、欠損金の繰越控除は9年間することができます。

(注)平成13年4月1日前に開始した各事業年度において生じた欠損金額については5年、平成13年4月1日以後に開始した事業年度から平成20年4月1日前に終了した事業年度において生じた欠損金額については7年となります。

なお、平成16年度税制改正により青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越期間が7年とされたことに伴い、平成13年4月1日以後に開始した事業年度においては、従来保存期間が5年間とされていた帳簿書類については7年間に延長されています。

また、平成23年12月税制改正により青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越期間が9年とされたことに伴い、平成20年4月1日以後に終了した欠損金の生じた事業年度においては、帳簿書類の保存期間が9年間に延長されました。

2-3.代表者自身への給与

個人事業では代表者自身へ給与を支給することができません。

これに対し、法人では代表者自身へ給与を支給することができ、役員報酬として処理することができるようになり、給与所得控除を使用することができるようになります。

ただし、役員給与のうち定期同額給与、事前確定届出給与及び一定の利益連動給与以外は損金不算入となりますので、これらの規定を順守しつつ支給することが必要です。

2-4.家族従業員への給与

個人事業でも法人でも、一般の使用人に対して支払う給料は特に要件がなく必要経費又は損金に算入されますが、使用人である配偶者や親族に対して支払う給料については取扱いが個人事業と法人では大きく異なっています。

個人事業の場合、所得税法では、事業者が生計をーにする配偶者その他の親族に支払う給料は、原則としてその事業の所得金額の計算上必要経費に算入しないものとされています。

ただし、例外として、青色申告書を提出する事業者が、青色事業専従者に給料を支払った場合、労務の対価として相当であると認められるものについては、必要経費に算入できることになっています。

これに対し、法人の場合、法人税法では、法人が使用人に対して支給する給料は、無条件に損金に算入されるのが原則です。

たとえその使用人が役員と生計をーにする配偶者その他の親族であっても異なることはありません。

ただし、役員の親族などの特殊関係使用人に対する給料については、不相当に高額な部分の金額は損金に算入されません。

2-5.代表者及び家族従業員への退職金

個人事業者が使用人に対して支給した退職金は必要経費に算入されます。

しかし、事業主自身に支払った退職金はもとより、配偶者その他の親族に支給した退職金は必要経費に算入されません。退職金の額というのは、多額になることが多々ありますので、その会社の利益や税金にも直結しかねない大きな項目ですので、これは非常に大きなデメリットといえます。

これに対し、法人が退職した役員又は使用人に支給する退職金は、原則として損金に算人されることになっています。このことは代表者やその配偶者その他の親族に対する退職金の場合であっても異なることはありません。

2-6.家族に対する賃借料・借入金利子

個人事業では、生計をーにする配偶者その他の親族に家賃、借入金利子などを支払っても必要経費に算入することはできません。

もし、その支払を受けた親族にその収入を得るために要した費用がある場合には、その経費の額だけは必要経費に算入されます。

これに対し、法人では、たとえ家族に対する賃借料・借入金利子であっても、相当な金額であれば損金に算入されます。例えば、自宅の一部を会社の事務所として使用するような場合、会社が使用している床面積などを基準に賃貸料を算出し、その金額で自宅所有者へ賃貸料を支払うことにより節税を図ることができます。

3.法人の税務上のデメリット

税務上は、個人事業と比較して法人にメリットが多く、デメリットはあまりないのですが、どうしても会社を作成することによる手間や管理・継続していくことによる手間がかかることは事実です。

法人のデメリットとしては、交際費の損金算入に制限があること、赤字の場合でも法人住民税の均等割が課税されること、所得金額が少ない場合には法人の方が個人事業よりも税負担が多くなってしまうことなとがあげられますが、他は個人事業でも法人でも同様か、法人の方が有利な取扱いとなっています。

3-1.交際費等

個人事業では、交際費についての必要経費算入限度額がなく、業務遂行上必要な交際費であればいくらでも必要経費に算入されます。なんでもかんでも交際費にできるわけではなく、あくまでも業務に必要なものだけですので、ご注意ください。

これに対し、法人では、交際費の損金不算入制度があり、資本金1億円以下の法人(グループ法人税制対象会社を除く)では、支出交際費の上限(上限
800万円)を超える部分は損金に算入されません。

法律上の規定だけをみると、交際費については、個人事業の方が有利だと考
えられます。

しかし、個人事業では、事業遂行上必要な交際費だけしか損金に算入されませんが、実際には事業と私用が混在していることが多々あります。

そのため税務調査で必要経費算入が否認されることも少なくありません。例えば、不動産貸付業などで飲食費や接待費などを交際費として処理している場合では、交際費はほとんど認められないのが多いのです。

これに対し、法人では、明らかに私用と認められるものを除き、交際費として処理しておけば問題になることはほとんどないようです。

このようにみると、交際費については、業務遂行上どうしても必要と認められる交際費の支出が多い場合には個人事業の方が有利、事業用とその他のものの判別が難しい交際費の支出が多い場合には法人の方が有利であると考えられます。

3-2.法人住民税の均等割

個人事業では、赤字であれば、その事業に関係して所得税、住民税(所得割)、事業税が課税されることはありません。

これに対し、法人では、たとえ赤字であったとしても、法人住民税の均等割が最低でも7万円は課税されます。休業中であっても課税されてしまいます。

3-3.他の所得との損益通算

不動産所得や給与所得などの安定した所得のある人が個人事業を始めた場合
、事業を行うことによって赤字が生じた場合には、損益通算により、その赤字金額を不動産所得や給与所得などから控除することができます。

一方、同じ人が法人を設立して事業を始めた場合、その法人が赤字になったとしても、その赤字分を不動産所得や給与所得から控除することができないのは当然です。(法人の赤字と個人の黒字を相殺することはもちろん認められていません。)

したがって、他に所得のある人が事業を始めて、その事業が赤字となる場合には、個人事業の方が有利となります。

3-4.その他のデメリット

以上の税務上の問題のほかに、法人には、会社設立の費用(株式会社の場合25万円前後、合同会社の場合は10万円前後)と手間、株式会社の役員の重任登記(登記をし忘れると罰金が課されてしまいます。)、決算を広告しなければならないこと、経理の複雑化などのデメリットもあります。

しかし、会社化すると個人事業とは比較にならない信用を得ることができます。これらは会社として信用を得るためのコストであると考えるべきものと思われます。

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