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法人成りに当たっての個人財産の引継ぎ 法人の設立による節税


【目次】

法人成りをする場合、法人が個人財産を引き継ぐ方法としては、個人から法人が買い取る場合と法人への現物出資があります。いずれの方法でもその資産の時価以外の価額で引き継ぐ場合には、税務上の問題が生じます。ただ、時価といっても実は色々な時価がありますので、最も有利な時価を選択することとなります。

1.法人が個人から財産を買い取る場合の時価

設立後の法人が個人から財産を買い取る場合、その価額は時価によります。

財産の種類にもよりますが、単純に個人事業者の帳簿価額で買い取ることは、時価との差額がそれほどないときを除いて認められません。

1-1.棚卸資産

新たに設立された法人に棚卸資産を譲渡する場合、原則として、その価額は通常他に販売する価額により譲渡することとなります。

もし、棚卸資産が通常他に販売する価額のおおむね70%に相当する金額に満たない対価により譲渡した場合には、通常他に販売する価額の70%相当額で譲渡があったものとみなされます。

ただし、商品の型崩れ、流行遅れなどによって資産価値の低下したものについては、その処分可能価額が通常他に販売する価額に該当するものと考えられます。

したがって、法人の棚卸資産の買取価額は、通常の取引価額と通常の取引価額のおおむね70%相当額の間で、合理的と考えられる金額を選択すべきです。

なお、個人は、法人が買い取った金額を事業所得の総収入金額に算入することになります。

1-2.減価償却資産

減価償却資産の時価については、その資産の種類、用途、形式、構造材質、使用経過年数等を考慮し、固定資産税評価額、販売業者の見積販売価額、類似物件の売買実例価額等を考慮してその時価を決定すべきものと考えられます。

時価の算定が困難な減価償却資産については、法人税基本通達の規定により、その資産の旧定率法未償却残額(再取得価額を基礎として旧定率法による減価償却累計額を控除した価額)をもって時価とすることもできます。

減価償却資産の時価は、次のように計算することができます。

再取得価額 × 旧定率法未償却残額割合=時価

この通達は、本来、資産の評価損を計上する場合における減価償却資産の時価の取扱いを規定したものですが、同時に減価償却資産を譲渡する場合の時価(通常の取引価額)も示しています。

なお、この趣旨は、この通達により算定した金額が時価として認められるということであり、この通達により時価を算定しなければならないということではありません。実務上は、減価償却資産の期末帳簿価額により譲渡することも多々ありますが、期末帳簿価額が1円の資産を1円で譲渡するというようなことは認められないと考えられます。

したがって、減価償却資産の時価については、売買実例等を考慮して適正に算定した価額と法人税基本通達9-1-19の規定による旧定率法未償却残額のいずれか有利な方を選択することも可能です。例えば、都心部の不動産の場合、時価については下がらないような物件が多くありますが、その時価と減価償却後の残高を比較すると減価償却後の残高の方が低くなるわけです。この場合には、有利な方、つまり減価償却後の残高を時価とし個人から法人に財産を譲渡するわけです。

固定資産については、原則として、その譲渡の対価の額が個人の譲渡所得の総収入金額に算入されますが、その対価の額が譲渡時の時価の2分の1に満たない場合には、その譲渡時の時価で譲渡したものとみなされます(みなし譲渡と言われています。)

1-3.債権

法人成りした時点で有していた個人の売掛金、受取手形、貸付金などは、法人が引き継いでも引き継がなくても、経営上又は税務上の影響はないものと思われます。

前渡金や前払金については、原則として法人に引き継ぐことになります。

これらの債権の引継価額は、原則として、債権金額によることになりますが、回収不能見込額がある場合にはこれを控除して、確実に回収できる金額を引き継ぐ必要があります。もし、引継ぎの時点で、貸倒れの事実が発生している債権を引き継いだような場合には、法人から経済的利益を受けたものとして課税されることになりますので注意してください。

1-4.土地建物

現物出資又は買取りのいずれの方法でも、個人には譲渡所得が生じることになります。また、土地建物を引き継ぐと名義変更のための費用(司法書士費用や登記代、抵当権が設定されている場合には抵当権の抹消費用など)がかかってしまいます。したがって、土地建物については、法人が個人から賃借することにより事業の用に供するのが一般的で、譲渡するとしても建物だけ譲渡し、土地は譲渡しないことが多いようです。

土地建物を法人が引き継ぐ場合は、現物出資又は買取りのいずれの方法でも、時価によることになります。

2.現物出資による引継ぎ

現物出資とは、法人の設立時又は設立後の新株発行の際に、金銭以外の財産をもって出資することをいいます。

個人事業者が、事業に使用していた財産を現物出資すると、新株の交付を受けることになりますが、それは新株の価額を対価としてその資産を法人に譲渡したことになります。

現物出資は、税務上、譲渡の一形態として扱われています。したがって、現物出資をした個人について、譲渡所得が生じることになります。

また、現物出資をするには、定款に現物出資をする発起人の氏名、出資の目的たる財産とその価額及びこれに対して与える株式の数などを記載し、さらに裁判所の選任した検査役により、これらの事項が適当であるかどうかの検査を受けなければなりません。

ただし、次の場合には検査役の調査を省略することができます
1.現物出資する財産の総額が500万円以下のとき
2.出資する財産が市場価格のある有価証券で、定款に記載した価額が市場価格を超えないとき
3.現物出資する財産の価額が相当であることにっいて弁護士、税理士等の証明を受けた場合(不動産については不動産鑑定士の鑑定評価も必要)

いずれにしても、現物出資により個人財産を引き継ぐには手数がかかります。

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