会社が不動産を所有する法人で不動産オーナーの所得分散をする
不動産オーナー(地主)から税理士に寄せられる質問に「会社の活用」があります。そのうち、会社が不動産を所有する法人で不動産オーナーの所得分散をする方法について解説いたします。
1.会社が不動産を所有する法人の概要
会社が不動産を所有(会社名義で賃貸用建物を所有)する方式は、建物の名義は同族会社になります。
したがって、家賃収入はもちろんですが、礼金・更新料等の一時的・臨時的な収入もすべて会社の収益となります。
管理型法人や転貸型法人は家賃収入に対し一定割合の所得分散(利益移転)効果しか見込めず、また、管理実態などにより課税当局とのトラブルが少なくありません。
しかし、会社名義で建物を所有する場合は、建物とその収益が名実ともに会社のものであり、所得分散(利益移転)効果も大きく、課税上のトラブルも少なく、スキームも簡単であるといえま
す。
所有型法人の場合、建物を新築した際に名義を会社とする方法と中古建物(個人名義)を会社に移転する方法の2つがあります。
中古建物を所有型法人名義にするときは、どの物件を所有型法人名義とするか、その場合の移転価額の算定はどうするか、銀行ローンの引継ぎは可能か、所有型法人負担の登録免許税や不動産取得税はどのくらいかなど様々な点に留意して実行することが必要です。
なお、建物敷地については個人の名義のままで、所有型法人が一定の地代を支払う場合が多いのがほとんどではないでしょうか。
これは、移転時の譲渡所得課税や登録免許税・不動産取得税等の負担の問題のほか、所有型法人の購入資金の調達問題、相続税計算時の評価減などを勘案しているからです。
2.一括転貸(サブリース)方式に対する課税当局の対応
所有型法人の場合、所有型法人が建物を所有し、不動産オーナー(個人)が地主という関係になります。
借地権(権利金)の認定課税を避けるため、土地の貸借について「無償返還方式」にします。
「無償返還方式」とは、地主と賃借人が将来その土地を無償で返還することを定めて税務署長へその旨を届け出るもので、この場合借地権は発生しません。
地代の金額は、ゼロから土地の更地価額の6%までの範囲内で自由に設定できますが、当事務所では、地代の支払を抑え、かつ「賃貸借」として土地が80%評価となるよう、土地の固定資産税と都市計画税の合計相当額の2~5倍程度の地代(年額)を支払うようにおすすめしています。
この場合、所有型法人と不動産オーナー(地主)の間で土地の貸借契約を締結することになります。
税務上は、この貸借契約の結び方が重要なポイントです。
所有型法人と地主の貸借契約は、大きく分けて「賃貸借契約」と「使用貸借契約」の2つがあります。
賃貸借契約は、土地の固定資産税と都市計画税の合計額を上回る地代を所有型法人が地主に支払います。固定資産税と同額くらいの水準ですとただで貸しているのと同じとみなされてしまいます。
実務上は、概ね固定資産税と都市計画税の合計額の2~5 倍の地代設定が多いようです。支払地代が多額になると所有型法人から地主へ所得が逆流するため、地代設定は低めが望ましいでしょう。せっかく法人に所得を移転したのに、個人にたくさん地代を払ってはまた個人に所得が戻ってきてしまいます。
また、固定資産税や都市計画税は毎年変わりますので、地代の額も毎年見直すような契約形態が一般的です。
なお、借地権が異動しないよう「土地の無償返還に関する届出書」を提出しますが、これにより地主の相続時に土地評価の際「20%の評価減」の適用が受けられます。
なお、この場合、借地権者が地主の同族関係者となっている同族会社であるときは、その同族会社の株式又は出資の評価上その宅地の自用地としての価額の100分の20 に相当する金額を純資産価額に算入することになりますので、ご注意ください。
使用貸借契約は、地代の支払をしないか、又は、地代の額を固定資産税・都市計画税の合計額相当額までに抑えた契約となります。
一般的には、地代の額を固定資産税・都市計画税の合計額相当額とすることが多いようです。地代が低い(又はない)ため、所得の逆流は防げますが、その反面、地主の相続時の土地評価は「自用地で評価(土地の評価そのもの= 100%評価)」され、評価減の適用は受けられません。
実務上は、相続税の評価減を視野に「土地の無償返還に関する届出書」を提出し地代の額を低く設定する賃貸借契約をとることが多いです。
しかし、これらの契約形態は自由に変更することができます。
例えば、不動産オーナー(地主)が若く、相続開始までには相当の時間があると見込まれる際に、まず使用貸借契約として地代の額を固定資産税・都市計画税の合計額相当額とし、相続が近くなってから賃貸借契約に変更するという方法も可能です(正確な相続開始時期が予想できないというリスクはありますが)。
3.会社へのー括賃貸料の算定法
中古建物(個人所有)を所有型法人に移転する場合、どの収益物件を所有型法人名義とするか、その場合の移転価額の算定はどうするか、銀行ローンの引継ぎは可能か、所有型法人が負担する登録免許税や不動産取得税の支払は可能かなど様々な点に留意して実行することが必要です。
3-1.どの収益物件を所有型法人名義とするか
中古建物(個人所有)を所有型法人に移転する際の主な判断ポイントは、次のとおりです。
- 収益性の高い物件を移す(多額の所得移転効果が見込まれる)。
- 建築後、相当年数が経っている物件を移す(建物の評価額が低
いため、譲渡価額が安く、移転コストも低く抑えられる)。 - 借入金のない物件を移す(物件に見合う借入金は不動産オーナ
ー個人の相続税の計算で債務控除の対象にできる。また、銀行との交渉も不要である。)。 - 不動産オーナー個人の相続税対策として借入金で建築した建物
は移さない(主目的が不動産オーナー個人の相続税対策であり、
会社に移すと効果がなくなる)。
3-2.移転価額の算定はどうするか
中古建物(個人所有)を所有型法人に移転する際の移転価額はその建物の「時価」相当額です。
これは、不動産オーナー個人とその所有型法人(同族会社)が建物売買取引を行った場合で不適切に低額あるいは高額な取引と認められると、「同族会社等の行為又は計算の否認等」の規定により、時価で取引したものとされ、課税されることがあるためです。
また、賃貸建物を時価の2分の1未満で不動産オーナー一個人が所有型法人に譲渡した場合は、みなし譲渡課税が適用され、個人が時価で譲渡したものとみなされます(所有型法人にも法人税の受贈益課税がなされます)。
これらの点により時価相当額の譲渡により実行していただいています。
この場合の「時価」は第三者間における客観的交換価値である正常な価額ということになりますが、実務上は、不動産鑑定士の鑑定評価額などを参考にして決めることになります。
3-3.移転時のコスト負担(税金、諸費用)
(a)譲渡所得課税
時価により中古建物(個人所有)を所有型法人に移転した場合で、譲渡益(時価>帳簿価額)が生じたら譲渡所得課税がされま
す。
売却益について、短期所有(5 年未満)で39%、長期所有(5 年以上)で20%の税率が適用されます。
一般的に譲渡益が生じさせないようにします。譲渡損(時価<帳簿価額)が生じた場合、他の所得との損益通算はできません。
(b)消費税
中古建物(個人所有)を会社に移転する取引は消費税の課税売上に該当します。
個人が課税事業者の場合、外税か内税かの判断と共に消費税計算に算入する必要があります。また、この取引を課税売上として将来の課税事業者に該当するか否かの判定がされますので、建物の譲渡金額が大きいと消費税の課税事業者となってしまいます。
(c)印紙税
中古建物(個人所有)を所有型法人に移転する取引でも「建物売買契約書」の作成は必要です。
この契約書には売買金額により印紙の貼付が必要となります。なお、不動産の仲介業者を介さずに取引する場合がほとんどだと思いますので、仲介手数料の負担は考えなくてよいでしょう。
(d)登録免許税、不動産取得税、司法書士手数料
中古建物(個人所有)を所有型法人に移転するには名義変更(所有権移転)が必要です。
建物の所有権移転により、所有型法人に登録免許税(固定資産税評価額×2.0%)と不動産取得税(商業ビル等住宅以外の家屋は固定資産税評価額)×4%、住宅用家屋は固定資産税評価額×3%)の課税がされます。
また、登記手続きを司法書士に依頼した場合には、司法書士報酬等が必要となります。
4.敷地(土地)を所有型法人に移転する場合
4-1.相続税の支払原資の確保
所有型法人の場合、会社が賃貸用建物を所有しますが、その建物の敷地は個人名義のまま置いておき、所有型法人が一定の地代を支払う場合が少なくありません。
これは、敷地移転時の譲渡所得課税や登録免許税・不動産取得税等の負担の問題のほか、所有型法人の購入資金の調達問題、相続税計算時の評価減などを勘案しての対応といえます。
しかし、いざ不動産オーナーに相続が開始した場合に、納税資金を調達する観点で、相続人が所有型法人に敷地を譲渡することが考えられます。
所有型法人は購入資金を金融機関からの借入で調達することになります。
4-2.相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例
相続人が相続税の納税資金調達のため所有型法人(同族会社)に敷地を譲渡した場合には譲渡所得税(住民税を含む。)が課税されます。
その際、一定の要件をクリアすれば「相続税の取得費加算」特例の適用を受けることができ、相続税額が必要経費として取得費に加算されます。
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