不動産所得者の記帳の仕方について

平成27年6月10日に王子税務署にて不動産所得者の記帳の仕方について講師を担当いたしました。その内容についてまとめています。
不動産所得者の記帳の仕方について

目次

1.なぜ記帳が必要なのか

なぜ個人の不動産所得者は記帳が必要なのでしょうか。

それは、日本の所得税が申告納税制度を採用しているからです。

申告納税制度とは納税者の方が自ら税法に従って所得金額と税額を正しく計算して申告をし、納税をするという制度であり、「自ら計算をする」という制度であるから記帳が必要なのです。

そのためには、1年間(1月1日から12月31日までの間)に生じた所得金額を正しく計算し、収入金額(不動産所得者でいえば賃貸料収入などが該当します。)や必要経費(不動産所得者であれば修繕費や固定資産税が該当します。)に関する日々の取引の状況を帳簿に記録(記帳)し、また、取引に伴って作成したり受け取ったりした書類を保存しておく必要があります。

不動産所得の業務を行う全ての方(所得税の納税の必要がない方も含みます。)は、帳簿を備付け、これらの業務に係る取引を所定の方法により記録し、一定期間保存することが所得税法で義務付けられています。

また、帳簿等の記帳は、単に税金の計算を行うためだけでなく事業経営の合理化・効率化等の検討にも役に立ちます。

例えば、前年との比較により何月の家賃が下がっているだとか、空室率はどのくらいであったとか、どの経費が前年と比べて多かったかなどの比較検討ができるようになるわけです。


2.白色申告

申告者の区分としては、白色申告者と青色申告者の2区分あります。

白色申告者・青色申告者どちらも収入金額や
必要経費を記載すべき帳簿(法定帳簿)を備付けて、収入金額や必要経費に関する事項を記帳する必要があります。

また、収入金額や必要経費を記載した帳簿のほか、業務に関して任意で作成した帳簿(任意帳簿)や業務に関して作成し、又は受領した請求書・領収書などの書類を保存する必要があります。

平成26年より白色申告者の方も帳簿の記帳をしなければいけないということになりますた。

簡易な方法による帳簿の記帳でいいのですが、それであればほとんど同じ様式である青色申告による簡易帳簿を作ってしまったほうが、税金的にはお得です。


2-1.帳簿書類の保存期間

帳簿は一定期間保存しなければいけません。

白色申告の方の帳簿書類の保存期間は以下のとおりです。

保存が必要なもの保存期間
収入金額や必要経費を記載した帳簿(法定帳簿)7年
業務に関して作成した上記以外の帳簿(任意帳簿)5年
決算に関して作成した棚卸表その他の書類5年
業務に関して作成し、又は受領した請求書、納品書、送り状、領収書などの書類5年

※ 保存期間は、帳簿についてはその年の翌年3月15日の翌日から7年間(又は5年間)、書類についてはその作成又は受領の日の属する年の翌年3月15日の翌日から5年間となります。

平成27年分の帳簿であれば、その年の翌年平成28年3月16日から7年後の平成35年3月15日まで保存する必要があります。

資料はできればダンボールなどに一年分の資料をまとめて保存しておいて、期限がきたら箱ごと捨てるといったやり方のほうがわかりやすいです。何年分もまとめてファイリングしていると、複数年の資料がまたがってファイリングされてしまいます。

資料は一年ごとに新しいファイルに保存します。


2-2.白色申告者の記帳の内容

所得の金額が正確に計算できるよう、取引のうち、総収入金額及び必要経費に関する事項について、「整然と、かつ、明瞭に記録」しなければなりません。

整然と、かつ、明瞭とはどのくらいのレベルを言うかというと、下記のとおりです。

  • 収入
    賃貸料、雑収入のように適宜な項目に区分して、それぞれの
    • ① 取引の年月日
    • ② 事由
    • ③ 相手方の名称
    • ④ 金額
  • 費用
    雇人費、減価償却費、貸倒金、地代、借入金利子及びその他の経費の項目に区分して、それぞれの
    • ① 取引の年月日
    • ② 事由
    • ③ 支払先の名称
    • ④ 金額

つまり、いつ、だれが、なにを、いくらで、どうした ということを記帳すれば、「整然とかつ明瞭」という要件を満たすわけです。

具体的な帳簿の様式例については、国税庁のサイトをご参照ください。

白色具体的な帳簿の様式例



2-3.記帳のしかた

不動産の貸付けによる収入は、契約上の支払日に「賃貸料」、「権利金」、「雑収入」のように適宜の項目に区分して、それぞれ「摘要」欄に事由、相手方の名称を、「収入」欄に金額を次の記載例のように記載します。

白色2

家事関連費という、経費にはならないものがあります。

例えば、1階を賃貸、2階を自宅としている場合の2階部分の固定資産税は経費とはなりません。

そのような場合、2階部分の固定資産税は家事関連費となります。

家事関連費を経費にはしないようにしましょう。


2-4.注意事項

  • 事業用の現金と個人的な現金を区分しましょう。
    不動産所得者であれば、預金を使うことが多いと思いますので、事業用の預金口座も開設し、個人用の口座とは区分しましょう。
  • 記帳の担当者、現金管理の担当者を決めましょう。
  • 月末には帳簿の記帳内容の確認や領収書等の整理を行いましょう。可能であれば、毎日少しずつでも記帳すべきです。


3.青色申告

青色申告とは、日々の取引を所定の帳簿に記帳し、その記帳に基づいて所得金額や税額を正しく計算し申告することで、所得の計算などについて有利な取扱いが受けられる制度であり、特典として67の特典があります。

3-1.青色申告の手続

青色申告を始めようとする年の3月15日までに、税務署に「所得税の青色申告承認申請書」(国税庁ホームページからダウンロードできます。)を提出します。

なお、年の途中で業務を始めた場合は、開業の日から2か月以内に申請書を提出すればよいことになっています。

3-2.青色申告の特典

事業的規模でない不動産貸付業を営む方が青色申告をする場合は、青色申告特別控除として、最高10万円を控除することができます。
10万円控除したとした場合税金はどのくらい減るかというと、15,105円税金が安くなります。
所得税率は累進税率ですので、税率が高ければ高いほど節税効果は高くなります。

10万円×5.105%=5,105円
10万円×10%=10,000円
計15,105円

所得税率・復興特別所得税率 5.105%、住民税率10%と仮定

また、青色申告者の方で、事業的規模の不動産所得又は事業所得を生ずべき業務に係る取引を「正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)」に従って記録している方は、一定の要件の下で、その年分のこれらの所得の計算上、青色申告特別控除として、最高65万円を控除することができます。

【参考:「事業的規模」とは】
 不動産の貸付けが事業的規模かどうかについては、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって、実質的に判断します。

 ただし、建物の貸付けについては、次のいずれかの基準に当てはまれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます。
(1)貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
(2)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

青色申告者については、事業から生じた純損失の金額を、翌年以後3年間にわたって、順次各年分の所得金額から差し引くことができます(純損失の繰越しといいます)。
また、前年も青色申告をしている方は、純損失の繰越しに代えて、その損失額を前年分の所得に繰り戻して控除し、前年分の所得税額の還付を受けることもできます(純損失の繰戻し)。
※ 純損失の繰戻しは、損失が生じた年分の確定申告書をその提出期限までに提出する必要があります。

原則複式簿記による記帳なのですが、簡易帳簿を利用することにより65万円控除を受けることができます。


3-3.簡易帳簿とは

帳簿の種類については、行う業務の内容により異なりますが、標準的な簡易帳簿の種類は、①現金出納帳、②収入帳、③経費帳、④固定資産台帳の4種類があります。

  • (1)現金出納帳
     不動産貸付用の現金の出し入れの状況を、取引順に記載する帳簿です。
  • (2)収入帳
    貸家や貸地などの不動産ごとに、賃貸料や礼金、敷金、更新料、共益費などについて記載する帳簿です。
    未収の家賃等が発生した場合でも、未収賃貸料等として記載します。
  • (3)経費帳
    不動産貸付上の費用を租税公課、修繕費、地代家賃、給料賃金などの科目ごとに口座を設けて記載する帳簿です。
  • (4)固定資産台帳
     不動産貸付用の減価償却資産について、原則として個々の減価償却資産ごとに口座を設け、資産の取得及びその異動に関する事項などを記載する帳簿です。

簡易帳簿はこちらからダウンロードできます。



3-4.簡易帳簿の書き方

簡易帳簿は原則1月につき1枚作成します。

(1)現金出納帳
 最初の行の「摘要」欄に「前年より繰越」と記載して、前年末の現金(他から受け取った小切手や普通為替証書も現金として取り扱います。)の在高を「現金残高」欄に、次の記載例のように記載します。

 現金による収入は、原則として一取引ごとに、収入の相手方の名称及び物件名などを「摘要」欄に、金額を「現金売上」欄に記載しますが、少額な現金取引については、次の記載例のように日々の総額で記載することもできます。

 また、保存している伝票、納品書控などによりその取引内容が確認できるものについては、その収入の内訳別に日々の総額のみを記載することもできます。
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ポイント

  • 現金出納帳の記載は毎日行い、現金残高も必ず記載して、その日のうちに実際の現金と突き合わせることが大切です。
  • 事業用の現金と個人的な現金を区分しましょう。
  • 記帳の担当者、現金管理の担当者を決めましょう。
  • 費用を支払った場合は、同時に経費帳の記載も忘れずに行いましょう。



3-5.会計ソフトを導入する場合

複式簿記で記帳をする場合、会計ソフトの導入をおすすめしています。

有名どころの会計ソフトをご紹介いたします。


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