海外税務の租税回避否認規定への対応

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目次

1.海外税務の租税回避否認規定への対応

東京都北区赤羽の税理士の鈴木です。

海外へ進出する場合、海外税務への理解が不可欠です。特に租税回避否認規定について特に注意が必要です。



1-1.親⼦会社間取引の注意点

親⼦会社間、兄弟会社間で取引を行う場合の取引価格は第三者間と同じ価格で⾏う必要があります。不自然に高かったりすると、寄附金となってしまうリスクがあります。


1-2.移転価格税制とは

海外取引で注意すべきは移転価格税制です。適⽤対象取引は国外関連者との取引で、調査対応の事務負担が⼤きく、課税額が多額、国際的⼆重課税が発⽣します。

課税要件は、独⽴企業間価格で取引を⾏っていないこととなります。もし国際的な⼆重課税が発⽣した場合は相互協議の申⽴てが可能です。

移転価格税制は怖い、といわれるのですがそれは経営を直撃する課税リスクがあるからです。外国の関係会社との取引すべてが対象となり、⽇本でのリスクと外国でのリスクがあります。また、専⾨性が⾼く難解であり、6年間遡及と億単位の追徴税額がなされることがあります。

移転価格税制の課税要件と法令の仕組み
課税要件は、
①国外関連者との取引であること
②独⽴企業間価格で取引を⾏っていないこと
です。


法令の仕組み

① 独⽴企業間価格の計算方法とは
第三者間の取引価格(利益率)と⽐較する⽅法、第三者間の利益配分割合を計算する⽅法があります。

② 移転価格税制は6年間遡及でき、第三者の取引を調査する権限が付与されています。



移転価格課税リスク
移転価格課税は多額な課税処分のリスクがあります。事例では1000億円を超える移転価格課税事例もあり、決算、資⾦繰り、剰余⾦の分配等に重⼤な影響を及ぼします。株主への説明責任として⽶国会計基準の実務指針の関係で、課税リスクが判明した時点で、情報開⽰が求められます。

また、⻑期間の税務調査となり調査期間は1年から2年となり、事務負担経費負担が⼤きいです。



1-3.移転価格調査による多額な課税処分を回避するポイント

移転価格調査での課税処分を回避するポイントとしては、移転価格課税リスクが潜在する取引を事前に把握することが何よりも重要です。そして、その取引の課税リスクを認識し、国外関連者と内国法⼈の利益バランスを仕切り価格を通じて調整する必要があります。また、 税務調査時に調査官を納得させられる独⽴企業間価格の計算⼿法を決めておくことも必要です。


2.調査対象とされる法⼈の特徴とは

内国法人が国外関連者と取引を行っている一方で、同一又は類似の取引を第三者と行っており、当該取引の価格が異なっている場合には注意が必要です。この場合同じ価格にする必要があります。

ただし、国外関連者がアメリカにあり、第三者がベトナムにあるという場合、マーケットが違います。運賃、保険料も変わってきます。この場合は市場の差異を調整して計算する必要があります。

また、内国法人が国外関連者と取引を行っており、市場にも第三者間で同一又は類似の取引事例があり、当該取引の価格が異なっている場合も調査官に目をつけられる取引です。内国法人にとって第三者間の情報入手は困難だからです。

内国法人の機能と国外関連者の機能を分析して、利益獲得への貢献度と利益の配分を比較したとき、内国法人への配分利益が少ない場合にも目をつけられます。

移転価格課税は特定の取引に着目し検証を行いますが、選定に当たっては、同規模、類似の第三者の売上総利益率、営業利益率と内国法人の売上総利益率、営業利益率を比較して、低い場合に移転価格上の問題が想定されます。



3.タックスヘイブン⼦会社の活⽤

タックス・ヘイブン対策税制は、外国子会社合算税制と呼ばれ、税率が無税の国や低税率の国にペーパーカンパニーを設立して、そこに利益をためた場合、その利益は出資者である日本親会社の利益なので、日本で合算するという制度です。


3-1.課税要件

  • 居住者、内国法⼈が50%超出資
  • 当該居住者⼜は内国法⼈が10%以上出資
  • 当該外国法⼈の現地における租税負担割合が20%未満であること
  • 当該外国法⼈に留保⾦があること

適⽤除外基準の全てを充⾜すると合算課税を受けません。

外国⼦会社合算税制(租法第66条の6)

「タックス・ヘイブン」とは、“TAX HAVEN”(税の避難場所)を意味し、パナマ、リベリア、ケイマン、BVI 、香港、シンガポール、オランダなど気候が温暖で近代的な社会資本が整備されている快適なリゾート地を指すことが一般的です。日本では、1978年に導入された租税回避否認規定です。無税又は経過税の国、地域にペーパーカンパニー等を設立し、取引を通じて、利益をため込み、日本での課税を回避している取引に適用されます。法人のみならず個人株主にも適用があります。



3-2.タックスヘイブン対策税制の課税リスクの検討を要する典型的な具体例

タックス・ヘイブン対策税制の課税リスクを検討すべき事例には、以下のような場合が考えられます。

①パナマ等に便宜置籍船保有会社を設立して海運事業を行う場合

②シンガポール、香港、オランダ等に統括会社を設立し、グループ内金融や決済、シェアードサービス等の業務を行う場合

③外資優遇税制を持つ新興国に子会社を設立して、製造機能等の海外展開を行う場合

④M&Aにより外国の企業グループを取得し、組織の再編を行ったところ、タックス・ヘイブン子会社が傘下企業の中に含まれていた場合



3-3.タックス・ヘイブン税制のアウトライン

タックスヘイブン税制は内国法人に適用され、内国法人が10%以上出資している外国法人の留保所得が合算されます。

外国法人が、無税又は軽課税の国に所在し、その外国法人に留保利益がある場合が該当します。

外国法人は、内国法人(何社でもよい)及び居住者(何人でもよい)により50%超出資されている場合が対象となりますが、適用除外基準を満たす外国法人には適用しないこととされています。



3-4.適⽤除外基準

タックスヘイブン税制の対象となる特定外国⼦会社等であっても適⽤除外基準の全てを充⾜するものは課税されません。

適用除外基準は下記の項目があります。
① 事業基準
② 実体基準
③ 管理⽀配基準
④-a 所在地国基準
④-b ⾮関連者基準



3-5.基準1 事業基準

資産の運用における契約主体、無形資産の提供を行う権利主体、裸用船(機)の契約主体をタックスヘイブンに置いてもダメです。事務所や人が必要ないような業種が該当します。上記のような事業をしている場合、合算課税の対象となります。

特定外国子会社等が、株式(出資を含む。)もしくは債券の保有、鉱業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式及びこれに類するものもしくは著作権の提供又は船舶もしくは航空機の貸付を「主たる事業」とするものでないこと(措通66の6-15)。



3-6.主たる事業とは

特定外国子会社等が2以上の事業を営んでいる場合にそのいずれの事業が主たる事業であるかの判定については、措通66の6-8によるものとされます。そのいずれが主たる事業であるかは、それぞれの事業に属する収入金額又は所得金額の状況、使用人の数、固定施設の状況等を総合勘案することになります。

主たる事業の判定に当っては、原則として日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定する(措通66の6-17)。



3-7.事業持株会社・物流統括会社

統括会社が被統括会社の株式等を保有するのは「株式等の保有を主たる事業」となるかどうかですが、事業持株会社(統括会社)は事業基準を充足するものとされ、他の適用除外基準を充足すれば、適用除外となります。


3-8.統括会社の非関連者基準

被統括会社との取引は、非関連者との取引として計算されます。


3-9.基準2 実体基準

実体基準を満たすためには、特定外国子会社等が、その本店又は主たる事務所の所在する国又は地域において、その主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定的施設を有していることが必要です。

事務所があっても人がいないという不自然なケースを認めているわけではありませんから、固定的施設があり業務を行う人間がいて独立した企業としての実態を備えているという要件です。



3-10.基準3 管理⽀配基準

管理支配基準を満たすためには、特定外国子会社等が、その本店又は主たる事務所の所在する国又は地域において、その事業の管理、運営を自ら行っていることが必要です。具体的には、株主総会及び取締役会の開催、役員としての職務の執行、会計帳簿の作成及び保管等が行われている場所並びにその他の状況を総合的に勘案して判定されます。

解釈管理⽀配基準の説明資料として参考になる判決として、適用除外基準である管理支配基準をめぐって争われた税務訴訟に、熊本地裁平成12年7月27日判決があります。当該判決では、次のような資料を用意すべきことが示唆されています。

① 株主総会議事録、株主総会召集通知、取締役会議事録
② 会社組織図、役員名簿(業務分担)、決裁基準、稟議書等
③ 会計事務処理要領、会計帳簿の保管状況、外部監査・内部監査記録等



3-11.基準4-(1) ⾮関連者基準

タックスヘイブン対策税制の適用除外基準には、非関連者基準というものもあります。

特定外国子会社等の「主たる事業」が、次に掲げる業種のいずれかである場合、その事業を主として当該特定外国子会社等の関連者以外の者との間で行っていなければなりません(措通66の6-16)。卸売業、銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業又は航空運送業



3-12.基準4-(2) 所在地国基準

特定外国子会社等の「主たる事業」が、基準4ー(1)の業種以外である場合、その事業を主として本店所在地国において行っていなければなりません(措法66の6④Ⅱ)。

①不動産業の場合
主として本店所在地国にある不動産の売買、貸付、当該不動産の売買又は貸付の代理又は媒介及び不動産の管理

②物品賃貸業の場合
主として本店所在地国にある物品の貸付

③その他の事業の場合
主として本店所在地国

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