財産をわざと申告せずペナルティがなかった事例

相続財産を意図的に申告しなくてもペナルティが課せられなかった事例

目次

1.名義預金・名義株は相続調査で問題とされやすい

相続人名義の預金や有価証券等の金融商品が相続財産を構成するかどうか、いわゆる名義預金や名義株などは、相続税調査の際に最も問題になりやすいです。

その多くはその預貯金等の原資・管理・運用の状況から過去に贈与されたものか、名義のみ借りた相続財産か否かの判断を必要とします。


2.名義財産(相続財産)か贈与財産かの判断

  • 被相続人以外の名義の財産でも、その財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったと認められれば、その財産は、相続税の課税対象、つまり被相続人の財産とされてしまいます。
  • 名義財産となる(相続財産に取り込まれる)かどうかは、その原資がだれのものか、取引や口座開設の意思決定やその手続をだれが行っているか、その管理又は運用による利得を収受していたのがだれか、といった点から判断されます。
  • 名義財産ではなく、過去に贈与を受けたものであると判断する場合は、いつの時点でどのように贈与が行われたかが大きなポイントです。贈与を受けたものであれば、相続財産に取り込まれません。


3.相続財産を意図的に申告しなくてもペナルティが課せられなかった事例

平成23年5月1日の裁決では、相続税の申告に当たり、相続財産の一部である被相続人名義の株式について、相続人がその存在を認識しながら申告に至らなかった事情について個別に検討したところ、相続が当初から相続財産を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をしたとまでは認められないとされ、重加算税というペナルティは課せられませんでした。


4.国側の主張

国側は、相続人が、当初申告において計上していなかった被相続人名義の株式(株式)を相続財産であると認識していたにもかかわらず、関与税理士に対しその存在を秘匿し、過少な申告額を記載した相続税の申告書を作成させ、これを税務署に提出したものであるから、当初から相続財産を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をしたもので、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為に当たる旨主張しました。


5.結論

相続人は、法定申告期限前に本件株式の存在相続財産として認識していたと推認できるものの、

  • 相続人が関与税理士から証券会社の残高証明書を入手するように指示されたにもかかわらず、それに従わなかったこと
  • 相続人が関与税理士から申告書案記載の財産について個々に説明を受けていたにもかかわらず、株式の記載漏れを指摘しなかったこと
  • 相続税の調査の際、請求人が虚偽答弁を行ったことについては、それぞれ、
    • 相続人が、相続税の申告に当たって、関与税理士が株式を把握するために必要な資料を既に所持しており、改めて提出する必要がないと考えた可能性を否定しえないこと
    • 相続人は、関与税理士から申告書案記載の財産について個々に説明を受けていたとは認められず、また、申告書案に株式が相続財産として当然記載されていると誤認したまま、記載内容を十分に確認せず、その誤りに気付かなかったという可能性を否定しえないこと
    • 相続人が虚偽答弁を行ったと認めるに足りる証拠がないことから、これらのことをもって、相続人が当初から相続財産を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をしたとまでは認められない

として重加算税の賦課要件を満たさず、ペナルティである重加算税は課せられませんでした。


6.この裁決を受けて気をつけるべきこと

この裁決では、税理士と相続人との意思疎通や情報共有不足があったことが考えられます。

  • 相続人が関与税理士から証券会社の残高証明書を入手するように指示されたにもかかわらず、それに従わなかったこと

良好な関係を築き、何でも情報提供できるような体制が必要です。

  • 相続人が関与税理士から申告書案記載の財産について個々に説明を受けていたにもかかわらず、株式の記載漏れを指摘しなかったこと

説明方法にも工夫が必要です。なるべく相続人全員を集め、この財産については、どういうふうに評価をしただとか、この財産はないということで宜しいですね、などきちんと説明を行い、その証拠を残しておくべきです。

  • 相続税の調査の際、請求人が虚偽答弁を行ったことについては、それぞれ、
    • 相続人が、相続税の申告に当たって、関与税理士が株式を把握するために必要な資料を既に所持しており、改めて提出する必要がないと考えた可能性を否定しえないこと

税理士と相続人とで情報共有が不足しているため起こったことです。どの資料を提出し、どの資料を提出していないか相続人は把握しておく必要がありますし、税理士側でも整然としたファイル整理をすることにより、資料を体系だてて保存しておく必要があります。

  • 相続人は、関与税理士から申告書案記載の財産について個々に説明を受けていたとは認められず、また、申告書案に株式が相続財産として当然記載されていると誤認したまま、記載内容を十分に確認せず、その誤りに気付かなかったという可能性を否定しえないこと

税理士側の説明方法に問題があったものと考えられます。

このように情報共有不足により大変重いペナルティになることも考えられますので、納税者は信頼できる税理士に依頼し、情報共有を徹底するようにしましょう。

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