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棚卸資産の評価損の計上による節税 「資産」関係の節税


【目次】

棚卸資産の評価損の計上は認められないのが原則ですが、災害により著しく損傷したときや著しく陳腐化したときなど特別の事実が生じた場合には、評価損の損金算入が認められます。

1.棚卸資産の評価損が計上できる場合はどんなときか

棚卸資産の時価が下落したため、法人が資産の評価換えをして帳簿価額を減額した場合でも、その減額した金額は損金に算入されないこととされています。

棚卸資産の価格の下落による損失は、その資産を讓渡しない限り実現しませんので、原則として、評価損の損金算入は認められません。

ただし、例外として、棚卸資産について、次のような事実があった場合には、損金経理により帳簿価額を減額することを条件に、評価損の損金算入が認められます。

①物損等の事実及び法的整理の事実が生じた場合
②会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生計画認可の決定があった場合
③民事再生法の規定による再生計画認可の泱定その他これに凖ずる事実が生じた場合

上記①の法的整理の事実とは、会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続における評定が行われることのほか、民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったことにより評定が行われることが該当します。

2.物損等の事実とは

棚卸資産の評価損が認められる物損等の事実とは、次の事実をいいます。

イ 棚卸資産が災害により著しく損傷したこと
口 棚卸資産が著しく陳腐化したこと
ハ イ又は口に準ずる特別の事実が生じたこと

このうちイは、棚卸資産について評価損が計上できる場合の典型的な事例です。

災害により資産が損傷した場合に、評価損を計上するのは当然のことですし、損傷して売り物にならない、使い物にならない棚卸資産は当然に評価損を計上してもいいと考えるのが普通です。

この場合の災害は、天然自然のものであるか人為的なものであるかは問いません。

口の「著しく陳腐化したこと」とは、棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにもかかわらず、経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあることをいいます。

したがって、例えば、商品について次のような事実が生じた場合がこれに該当します。

①いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかであること。

②その商品と用途の面ではおおむね同様のものであるが、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、その商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったこと。

このうち、①の「いわゆる季節商品」とは、例えば正月用品のように一定の季節でなければ販売できない商品という意味ではなく、きわめて流行性が強いため、その時期に販売しなければ今後流行遅れとなって、もはや通常の価額では販売できなくなるような性質の商品という意味です。

したがって、「季節商品」というより「極めて流行性の強い商品」といった方がより適切な表現であると考えられます。

このような商品については、過去の経験則に照らして今後「通常の価額で販売できない」ことが立証できれば、評価損の計上が認められることになります。例えば過去に流行性の強い商品を売出し、結果としてどのくらい残ったかというようなことを記録しておけば、違う流行性の強い商品の場合でも同様の法則があてはまるということであれば、評価損の計上は可能と考えられます。

なお、棚卸資産の時価が、単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、陳腐化したことにはなりませんので、評価損の計上は認められません。

ハの「凖ずる特別の事実」とは、例えば、棚卸資産が破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったことをいいます。

3.評価損の計上をする場合の棚卸資産の時価

資産について評価損の計上が認められる事由が生じたために、その評価損の計上を行う場合のその金額は、評価換直前の帳簿価額と期末の価額との差額に達するまでの金額とされています。

期末の価額とは時価のことをいいますので、評価損の損金算入限度額の計算に当たり最も大切なのは、その資産の時価です。

資産の評価損を計上する場合のその時価は、その資産が使用収益されるものとしてその時において譲渡される場合に通常付される価額によるものとされています。

つまり棚卸資産の評価損の計上をする場合、その時価とは、讓渡価額(正常売価)のことをいいます。したがって、それは正味実現可能価額(譲渡可能価額から譲渡経費の見積額を控除した価額)や再調達原価ではありません。

なお、法人が消費税の経理処理にっき税込経理方式を採用している場合には、消費税込みの金額により時価を算定し、税抜経理方式を採用している場合には、消費税抜きの金額により時価を算定することになります。

4.災害等により著しく損傷した場合の評価損の立証

法人税法では、原則として、棚卸資産の評価損の計上は認められず、例外的に認められる場合でも、極めて限定的に捉えられています。したがって、法人の棚卸資産評価損の計上をめぐっては、税務当局との間でトラブルが生じることも少なくありません。

このようなトラブルを避けるためには、評価損の事実を立証する証拠となる書類、文書等の整備が不可欠となります。

災害等により著しく損傷した場合には、その損傷の原因ははっきりしているので、後はその事実の証明とその価額の立証がポイントになります。そのためには、次のような手続を踏んで書類を整備しておく必要があります。

①まず、災害等の新聞記事を保管しておき、災害等があった事実を簡単に確認できるようにしておきます。

②災現場と棚卸資産の写真(日付入り)を撮影しておきます。

③担当者の状況報告書や営業担当者の販売見込説明書、稟議書などの法人内部の文書を作成しておきます。

④棚卸資産に保険が付されている場合には、損害保険会社の評価に関する資料その他の保険関係書類を整備しておきます。

⑤災害を受けた棚卸資産の見本を保存しておきます。

⑥災害を受けた棚卸資産を売却し、売却価格を明らかにしておきます。売却に至らない場合でも、値決めの交渉過程を明らかにしておくとよいです。

5.著しく陳腐化した場合の評価損の立証

陳腐化した棚卸資産については、災害等により著しく損傷した場合と異なり、その資産の外見からは価額の低下の事実がわかりません。

そのため陳腐化したという事実の立証が大切です。その事実立証のために、またその価額を証明するために、次のような手続を踏んで書類を整備しておく必要があります。

①まず、なぜ陳腐化したのか、その事実を説明できるように稾議書等の書類を作成しておく必要があります。

②次に、その陳腐化した棚卸資産の販売実績を明らかにしておく必要があります。毎月の販売価格とその販売数量を集計しておくと役立ちます。

③他店の値付状況を明らかにするため、新聞の折込広告を収集しておくか、他店の店頭に出向いて値段を調査しておきます。

6.大幅に値下げして売却又は廃棄処分

棚卸資産の評価損とその価額を立証するためには、上記のような手続により書類等を整備しておくと役立ちますが、それでもその立証は必ずしも容易ではありません。

また、大幅な評価損を抱えている棚卸資産を保管していても、それが売却できるかどうかもわからず、長期間保管していても在庫費用がかかるだけです。

したがって、このような資産は、その時価よりもさらに大幅に値下げして売却処分してしまうという方法があります。こうすれば、税務署とのトラブルもありませんし、在庫の保管費用もかかりません。

それでも売却できないのなら、廃棄処分してしまうという方法も考えられます。

なお、廃棄する場合には、廃棄の状況を写真に撮ったり、廃棄処理業者から廃棄証明書を入手しておくといったことが必要になります。

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