海外取引における税務調査について
1.税務調査の対象にされやすい企業とは
東京都北区赤羽の税理士 鈴木です。
税務調査には、入られやすい企業とそうでない企業とがあります。
調査官はどのような企業を税務調査の対象として選定するかについて列挙いたします。
・ 業績が好調な企業
→全国には290万社の法人があり、そのうち9万社が年間選ばれて税務調査が行われます。全体からみると3%ほどしかありません。
国税局所管の法人だと10%くらいまで接触割合が上がると考えられます。
・財務係数に異常値がある企業
→所得を過小に申告する場合、年々安定した売上総利益率や営業利益がありますが、特定の費用や損失などで財務係数に異常値がある場合調査対象にされやすいです。税務調査官は事前に準備調査というものを行います。5年間ほどの貸借対照表項目と損益計算書項目を一覧表にして年度ごとに比較していく方法で、この方法により異常係数を把握します。
・事業年度により財務係数の変動が⼤きい企業
→係数が大きく変動する要素として、事業内容の変更、業態の変化、組織再編、会計処理の変更など様々な要因が想定されますが、利益調整を行っている結果という見方もできます。
企業側で財務係数の変動を常に把握しておき、変動要因を答えられるようにしておけば調査日数が短縮されるものと考えられます。
・当局が収集し、蓄積した資料・情報(法定調書、国外送⾦・受⾦情報、新聞・雑誌・マスコミ情報、投書等)と申告内容に不⼀致等が想定される企業
・役員本⼈、家族、親族等の個⼈申告に申告漏れが想定される同族会社や業態に⼤きな変化があった同族会社
2.海外取引における税務調査項⽬
税務調査の具体的項⽬に関する留意点です。
2-1.営業取引項⽬
輸出取引の収益計上漏れは事前チェックで防ぎましょう。具体的には書類のチェックで防ぐことができます。
2-2.国際間の役務の提供を業とする会社の注意点
役務提供に係る収益の計上基準に係る解釈指針ですが、海外取引の場合の通達は国内取引と同じ通達が適用されます。
また、役務提供の対価の授受にあたっては源泉所得税に注意しましょう。
2-3.輸⼊取引の留意事項
積送品在庫は輸送期間が⻑いほど⾦額が⼤きくなりますので注意が必要です。
また、実地棚卸の実施⽇が決算期末⽇でない場合は要注意です。実務上同じ日にはできない、期末に棚卸しができないことがあります。自社倉庫を持っている会社、外部倉庫にあずけている会社、保税倉庫に入っている会社などさまざまです。貿易業の場合の在庫の確認は国内企業とは違った配慮が必要です。
3.営業取引項⽬の調査で注意すべきこと
棚卸資産の売買取引について、国内取引と海外取引を比較すると、海外取引では通関手続きがある点が大きな違いです。それに付随して次のような特徴があります。
1.デリバリーに時間がかかります(船便だと1ヶ月~50日)
2.外貨建ての取引である→換算という作業がどの時点で発生するか
3.書類が外国語で記載されている
4.金融機関が発行する信用状等を活用した取引があること
船積基準だと船荷証券やINVOICEの日付で収益計上となりますが、客先でOKが出てから収益計上とする場合、検収通知書の日まで収益計上を遅らせることができます。それは会社の色々な状況を総合勘案して決めることになります。収益計上時期がそうであれば、原価の計上時期も対応しますし、棚卸資産の拾い出しも変わってきます。
4.輸⼊取引で調査官が注目するポイントとは
船積み基準で仕入れを計上した場合、海外の輸入先が輸出港に停泊する船舶に積み荷を渡して、船荷証券が輸出者に手渡された時点で貨物は輸入者である内国法人に引き渡されたものとして取り扱われます。
輸出港の船に乗っかった時点で仕入れがたつというのが原則です。船舶上にある貨物、輸入港について荷揚げを待つ貨物、輸入申告を利用して通関業者から内国法人の自社倉庫に入庫するまでの積送品は実地棚卸しではカウントできない在庫となります。
5.貿易取引特有の誤りとは
貿易取引では、貿易条件(FOB,CIF,C&F)により棚卸資産の計算要素が異なります。貿易条件とはINVOICEのなかにどのような費用科目が含まれているかという意味で、棚卸資産の計算をするときにFOBでは保険料、運賃が入っておらず、棚卸資産の計算ではこれらを含めなくてはいけないため、INVOICEから保険料、運賃をひっぱってきてFOBのINVOICE価格と加算して棚卸資産を計算しないといけないことになります。
CIFは全部入っており、C&Fは保険料が入っていないため貿易条件で棚卸資産の計上が異なってくることになります。
6.国際取引における外貨建債権、債務の換算
外貨建売掛⾦は、円安時に為替差益が発⽣します。発⽣時換算法を継続的に適⽤している場合は、為替差益を益⾦として認識しません。
外貨建買掛⾦については、円安になると為替差損が発⽣します。期末時換算法を採⽤していると為替差損は損⾦となります。
国際取引は「円」を含む「他国通貨」で取引が⾏われます。取引時の円貨への換算と決算期末時の円貨への換算が重要です。
6-1.外貨建会計処理基準のポイント
① 取引発⽣時の会計処理
原則は、取引発⽣時の為替相場による円換算額です。
② 代⾦決済時の会計処理
外貨建⾦銭債権債務の決済は決済時の為替レートにより円換算。為替差損益を認識した場合には、損益計算書に表⽰されます。
③ 決算時の会計処理
イ 外国通貨・外貨建⾦銭債権・債務 決算時レート
ロ 外貨建前渡⾦・前受⾦ 前渡⾦等授受⽇のレート
ハ 外貨建有価証券 保有⽬的、種類によります
7.法⼈税法における外貨建取引の換算とは
① 取引発⽣時の税務処理
原則は、取引発⽣時の為替相場による円換算額先物外国為替契約により円換算額を確定させている場合は、その円換算によります。
② 決算時の税務処理
下記の区分に応じて処理します。
外貨建債権及び債務(売掛金・買掛金等) 発生時換算法又は期末時換算法
外貨建有価証券
売買目的有価証券(イ) 期末時換算法
売買目的外有価証券(ロ) 発生時換算法又は期末時換算法
(イ)(ロ)以外 発生時換算法
外貨預金 発生時換算法又は期末時換算法
外国通貨 期末時換算法
電信売相場(対顧客電信売相場)
「TTS」と略されます。顧客が⾦融機関で円貨を外国通貨に換える場合適⽤されるレートでです。⾦融機関側(売り⼿)から⾒れば、顧客へ外貨を販売する(外貨を売って円を買う)際のレートであるため、「売相場(Selling Rate)」と呼ばれます。外国為替市場(インターバンク市場)の取引実勢レートを基準にして、⾦融機関毎に決定される仲値(TTM)に為替⼿数料を上乗せしたものになっています。為替⼿数料については、対象となる外貨によって異なり同じ外貨でも⾦融機関によって異なることもあります。
電信買相場(対顧客電信買相場)
「TTB」と略されます。顧客が⾦融機関で円貨を外国通貨に換える場合適⽤されるレートです。顧客が⾦融機関で外貨を円貨に換える場合に適⽤されるレートです。⾦融機関は顧客から為替⼿数料(為替コスト)を取ることにより、外貨を⾼く売って、外貨を安く買うという仕組みになっています。
・電信売相場=仲値+為替コスト
・電信買相場=仲値-為替コスト
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