海外進出を検討する場合の税務の検討事項

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1.国際取引の重要なポイントとは

東京都北区赤羽の税理士 鈴木です。

最近お客様の海外進出が多くなってきています。お客様にとって海外進出する際には課税リスクを理解しておく必要があります。

国際取引で重要なポイントは下記の2つです。

  • 居住者・内国法⼈は世界のどこで所得を得ても⽇本で申告する必要があります。(全世界所得課税)

⾮居住者・外国法⼈への送⾦には源泉徴収が必要です。日本の源泉徴収義務者については必ず行う必要がありますので注意しましょう。税務調査では所得の課税もれ、源泉徴収もれをみつけようとする調査が行われます。


第三者間取引よりも関係者間取引にリスクがあります。

国内取引でもいえることですが、第三者と売買したり、役務提供したりというときにはそれが赤字取引でも税務当局は口出しができません。赤字取引であっても将来のための投資のために行った取引であれば問題ありません。それよりも国内取引で親戚の会社と取引をした、家族が役員をしている会社と取引をした場合に赤字で取引をしたような場合が厳しく調査されます。

なぜなら、それを更正処分する法律的な組み立てが可能だからです。法的根拠があるものについては厳しくなります。国内取引以上に海外取引では厳しく見られます。それが関係会社との取引をあつかった移転価格税制、タックスヘイブン対策税制、過小資本税制といった税制となります。



2.国際税務とは

海外進出に当たり税務を検討するに当たっては、まず、納税義務者が誰であるかを理解することが重要です

⽇本の納税義務者→日本企業・日本人、外国企業の⽀店・⼦会社

外国の納税義務者→⽇本企業の⽀店・⼦会社、外国企業・外国⼈・⽇本企業の⽀店・⼦会社


3.納税義務者は誰か

居住者・内国法⼈は、世界のどこで所得を得ても、すべての所得に対して⽇本国の所得税・法⼈税が課されます。

⾮居住者・外国法⼈は、国内源泉所得に対してのみ⽇本の所得税・法⼈税が課されます。
外国法人・非居住者の納税義務は下記6種類の所得を得たときに課税されます。

国内源泉所得とは

① PEを通じて事業を⾏う場合にPEに帰せられるべき所得
② 国内にある資産の運⽤⼜は保有により⽣ずる所得
③ 国内にある資産の譲渡により⽣ずる所得
④ 国内において⼈的役務の提供を主たる内容とする事業
⑤ 国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利等
⑥ その源泉が国内にある所得として政令で定めるもの



4.国際税務検討の⼿順

国際取引と国内取引においてその検討プロセスが異なります。


4-1.国内取引の検討プロセス

一番重要なのは取引の事実関係確認→適用される税法の解釈・適用→通達・当局開示情報確認→判例・裁決事例の検討

通達とは課税庁が下級官庁に対する指示であり、特殊な取引関係に当てはまらないことがあります。参考にはなりますが、完全ではありません。


4-2.国際取引の検討プロセス

「国内取引の検討プロセス」に加えて

適用される二国間租税条約の解釈・適用→OECDモデル租税条約、コメンタリーの検討→外国における判例等の検討

が必要となります。

憲法に国際法は国内法に優先して適用するという規定があります。

それと同時に法人税法と所得税法に租税条約に国内法と別の規定がある場合には租税条約が優先する、という明文規定があります。ですから租税条約に規定されていることが関連する場合、国内法にどのように書いてあっても条約が優先します。ですから必ず条約締結相手国との取引がどうかを確認する必要があります。

条約は、所得税に非常に似ており、どっちの国が課税できるかということが整理されているものが租税条約です。関係する条文を読めば、条約に異なる規定があるかということがすぐわかります。

次にOECDモデル租税条約、コメンタリーを確認します。これが通達の役割を果たします。通達と同様、法的根拠にはなりませんが、判例等をみると裁判所もコメンタリーを引用しているので、尊重はしなければいけません。

それで解決しない場合には判例を確認することになります。


5.国際税務の特殊性

国際課税に係る次のような特徴に留意する必要があります。

  • 作成される書類が外国語で記載されている
    →貿易取引やクロスボーダーの役務提供取引において作成される書類は外国語で記載されており、円建て取引以外に様々な外貨建て取引があります。
  • 貿易実務、外国為替といった取引実務の知識が必要
    →貿易実務には専門用語たくさんありますので、これらの専門用語に慣れる必要があります。
  • 当局は反⾯調査ができないので保存資料が重要
    →書類を残しておかないと納税者としては立証ができないことになります。しかし、租税条約に基づく情報交換制度というものがあり、当局同士で情報交換ができることになっています。(情報交換制度自体はあまり利用されていないようです。)
  • 国内法とともに租税条約、外国税制が関連
    →ビジネスとしてタックスを捉える場合、取引相手の税制を理解しておく必要があります。
  • 会計監査、税務調査の深度は国によってさまざま
    →振興国から入手した書類などは第三者的な目線から確認する必要があります。



6.国際税務は⼤局的に理解する

国際税務において適⽤される法令は⼤局的に理解しましょう。

(1)内国法⼈の所得計算に関する規定
確定決算主義、益⾦・損⾦の計算規定
⇒国内取引も国際取引も同じ規定が適用されます。

国際取引特有の規定は

イ 国際的な⼆重課税の排除に関する規定
→例えばアメリカに国内法人の支店がある場合、その支店は国内本店に合算され全体の所得に対して税金が課されるので、アメリカ支店で支払った税金を控除することになります。これが二重課税といわれるもので、外国税額控除という規定があります。今までは外国税額控除だけでしたが、外国子会社配当益金不算入制度というものが導入され、外国子会社から配当される配当所得は所得にいれないという規定です。二重課税の制度は外国税額控除と外国子会社配当益金不算入制度の2つで動いています。

ロ 租税回避否認規定
→移転価格税制、タックスヘイブン対策税制、過少資本税制といったものがあります。関係会社間の取引にだけ適用される条項です。

(2)⾮居住者や外国法⼈に対する⽇本での課税に関する規定

外国税額控除の国外所得⾦額の計算にも影響します。
(平成28.4.1以降開始事業年度については帰属主義)


7.益⾦・損⾦の計上基準は国内取引と同じ

国際取引における益⾦、損⾦も国内取引同様、法⼈税法22条に基づき算定されます。

法⼈税法第22条(各事業年度の所得の⾦額の計算)

①各事業年度の所得⾦額=益⾦の額-損⾦の額

②益⾦の額とは
別段の定めに規定する⾦額と資産の販売、有償・無償による資産の譲渡、役務の提供、無償による資産の譲受、その他

③損⾦の額とは収益に係る原価の額、販売費・⼀販管理費等

④②③は、⼀般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算される

⑤資本等取引



8.国際税務を実務で活⽤する場⾯とは

国際税務は以下の場⾯で検討・活⽤されます。

8-1.プロジェクトの事前検討

課税リスクは事後的に(税務申告が行われてから2年後、あるいは5年後)に顕在化することが一般的です。海外営業と本社経理部との情報共有により、課税リスクを契約段階で検討しておくのが積極的な経営といえます。営業サイドで将来課税リスクがありそうなものを経理に伝えてもらうというのが理想ですが、税金関係に明るい営業はあまりいないのではないでしょうか。

税務上トラブルになりそうなものは、社内の連絡プロセスをきちんと確率しておくということが税務調査で否認を受けない最善策といえます。


8-2.税務申告

日常の記帳から決算、申告書の作成という一連のプロセスのなかで、国際取引を行っている企業には必ず添付しなければいけない別表があったり、収集しなければいけない情報があります。

それをルーティーン化して、会社の中の方が理解をして、その上で外部専門家に依頼するということが必要です。外部専門家にすべて依頼してしまうと、会社の中で引き継ぎができませんし、リスクも認識できないということになります。自分でできるようにするということが重要です。



9.国際税務の税務調査への対応

海外進出を検討する場合の課税リスクについて一番の心配は税務調査への対応だと思います。上記の事前検討がしっかり⾏われていると、税務調査で慌てる必要はありません。しかしながら、事実認定と法令の解釈適⽤については、議論がつきものです。外部専⾨家と⼒を合わせて対応することになります。

当事務所では国際税務について積極的にアドバイスし、悩みを解決していきます。お困りの方は一度ご相談ください。

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