社員持株会の運営方法
社員による自社株式の取得・保有の常設機関として制度的に組織化されたものが社員持株会です。その持株会の運営方法について解説いたします。
目次
1.社員持株会の設立
持株会は、民法上の組合として設立します。(民法第667条)
この民法上の組合は、法人格はなく、単なる個人の集合体であるため、株式の名義登録は持株会としてはできないこととなります。
形式的には、持株会の理事長名義とし、株券の管理を理事長に信託します。
このように、株券を一元的に集中管理することによって、株式の社外流出を防止することができるのです。
さらに、民法上の組合は、一種の契約関係であって団体としての性格はありませんから、税務上の人格のない社団に該当しません(法基通1-1-1)。
また、任意組合員に対する直接的な法令等の規定はありませんが、「実質所得者課税の原則」の規定があります。
これは、社員持株会の理事長が一人で事業を営んでいるような一見執行事業者の形態にあったとしても任意組合の実態に照らし、実質的な所得は組合員に帰属するというものです。
したがって、配当金は理事長に一括して支払われますが、実質の受益者は会員の個々になっていますから、配当金はすべて各個人の配当所得となります。
当然、この配当金については、所得税の確定申告においては、配当控除を適用することができます。
なお、社員持株会を「人格なき社団」として設立しますと、株式は持株会自体が所有することになりますから、各個人の配当金は雑所得になってしまい、配当控除の適用ができなくなってしまいます。
さらに、社員持株会の受取配当金に対する源泉所得税は、徴収されたままになり、課税上不利になりますから、留意が必要です。
2.社員持株会の出資金
会員は、自社株取得のため、持株会に出資します。
同族会社における社員持株会の株式の取得は、臨時的にオーナー等の大株主からの特別な譲受け、または第三者割当増資の引受けなどの特別なケースがほとんどではないでしょうか。
このような場合は、持株会の理事会の決定を経て、臨時積立金を徴収して出資します。
株式の取得の前に会員から徴収して、普通預金などに持株会名義で一括して預金しておき、オーナー等より買い取ることになります。
しかしながら、この臨時積立方式だと、会員の資金負担が過重になる場合があります。
そこで会社は株式購入資金の援助を行うこといより購入補助をすることとなります。
資金援助として、
- 会社が会員個々に融資する。
- 会社が持株会に融資し、持株会が会員に貸し付ける。
- 購入資金の一部を特別に臨時賞与として支給する。
各会員は自己の計算において、会員ごとの債務を確定し、株主としての権利義務を明確に書類で管理することとなります。
会社の資金を貸し付ける場合の利率は、会社が通常他から借入れを行う場合の平均利率を勘案して使用すれば税務上特段問題はありません。
無利息や低利率での貸付けは、通常の利率との差額の利息が5,000円を超える場合はその利息の差額は給与所得として課税されることになります。
また、奨励金として会員に補助する場合は、株主への利益供与禁止規定に留意が必要です。
3.社員持株会の株式の購入
持株会は、出資金で株式をオーナー等から購入します。
この社員持株会の会員が、自社株式を取得する場合の価額は、配当還元価額です。したがって、売買価額として配当還元価額にすれば、課税問題は生じません。
一方、譲渡者であるオーナー等は取得価額である1株当たりの資本の額と譲渡価額が同額以下であれば、譲渡益はゼロまたは譲渡損失となり課税問題は生じません。
株式の譲渡益が生じた場合は、申告分離方式による所得税15%と住民税5%の計20%の課税となります。
4.購入した株式の配分
持株会が購入した株式は、購入のつど、会員の出資金額に比例して配分することとなります。
会員の持分については会員別の持分明細簿を作成し登録します。
5.株式の名義と管理
- 会員は、配分され登録された株式を管理のため持株会理事長に信託します。
- 株式の名義人は、持株会理事長名義として会社へ届出をします。
- 株券不所持制度を採用します。
株券発行会社では、株券不所持制度があり、株券不所持制度とは、会社が株主より株券不所持の申し出があった場合は、株券を廃棄処分して株券不発行の状態にしておくか、銀行または信託会社に寄託します。このように株券を紛失などした場合、第三者による善意の取得が発生することにより、株主権の喪失、株主の資格喪失という危険を排除する制度です。
株券不所持の申し出は、株主が「株券不所持申出書」を会社に提出することにより、会社は株券を不発行とするか、または寄託するかを決定します。
なお、会社は、不発行または寄託のいずれかの措置をとったかを、株主に通知しなければなりません。この通知は「株券不所持申出受付証」として行います。
このように、社員持株会の所有する株式についても、理事長名義で「株券不所持申出書」を提出して会社が保管しておく手続きをとることになります。
6.社員持株会の所有する株式の議決権の行使
株式の議決権は、名義人である理事長が会員の議決権を一括して行使するように規約に定めます。
会員は、その持分に相当する株式の議決権の行使について、各株主総会ごとに指示をすることができます。
また、会員に議決権の行使について不統一があった場合は、その行使を認めることができるようにしているのが通常です。
これは、各会員の独立性が確保されていることになるからです。
7.配当金の支払い
持株会が会社から受け取った配当金は、会員の持分に応じて決算期ごとに現金で、遅滞なく交付します。
なお、会員1人当たりの持分配当金が年間3万円を超える場合には、持株会理事長は、その会員ごとの「信託に間する計算書」を翌年の1月31日までに持株会所在地の所轄税務署宛てに提出しなければなりません。
これは、会社が配当金の支払調書を持株会の理事氏名で所轄の税務署に提出するからです。
8.社員持株会からの退会と株式の買取価額
会員が退職等の理由により持株会を退会する場合は、持株会規約に定められた価額で持株会が株式を買い取り、現金で交付することとなります。
通常、持株会規約において、退職の際には所有する株式のすべてを持株会へ譲渡すべきものとし、その譲渡価額は、配当還元価額方式による評価方法を参考にして、毎期首に理事会において定めるものとしておきます。
9.社員持株会会員の範囲と資格
9-1.「社員持株会」の会員の範囲について
持株会の会員となる社員は、その会社の社員及びその会社の子会社の社員に限られます。
持株会の会員となる範囲を拡大すると投資信託及び投資法人に関する法律の趣旨に照らし法令違反の疑義が生じるので、持株会
の会員となる社員の範囲は制限すべき必要があります。
ですから、その範囲はその会社の社員のほか、資本関係、人的関係等からみて、実質的にその会社の社員と同様と認められるものに限るとされています。その会社の社員と子会社の社員であり、通常の関連会社の社員は含まれません。
ただし、関連会社に出向している社員は認められます。
これは、社員持株会は、持株会社所有株式の名義を理事長とし、その理事長に管理信託する、信託契約によって成り立っていますから規制の対象とすべきだからです。
9-2.子会社とは
子会社とは、総株主の議決権の50%超の株式を有している会社をいいます。
また、子会社との所有株式数の合計が、総株主の議決権の50%超の株式を有する会社も含まれます。
9-3.関連会社とは
関連会社とは、子会社の所有する株式を含めて総株主の議決権(議決権のない株式は除く)の20%以上、50%以下を実質的に所有しており、会社の経営方針に重要な影響を与えることができる会社
をいいます。
9-4.社員持株会の会員資格
社員持株会の規約において、会員資格を勤続年数5年以上とか10年以上として限定することも可能ですし、単に「当社社員及び子会社の社員とする」とのみ規約することもできます。その会社にとって必要な社員の範囲を決定すればよいことになります。
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