増資した新株を社員持株会を利用して、株価を下げる方法

増資した新株を社員持株会を利用し、株価を下げる方法
株価引下げの方法として考えられるもののひとつに増資した新株を社員持株会を利用し、純資産価額を下げるというものがあります。

目次

1.増資した新株を社員持株会を利用し、株価を下げる方法の概要

まず社員持株会を設立します。

次に株主割当による増資を行います。
ただし、新株は議決権制限株式とします。

増資した新株をすべて社員持株会へ譲渡します。

そうすると、1株当たりの純資産価額の評価が下がります。
※ 類似業種比準価額による株価も少し下がります。

オーナー本人の所有株式数は変わっていませんから、株式財産額が減額されます。

オーナー以外は議決権がありませんから、議決権割合は100%確保することができます。


2.議決権制限株式の考え方

旧商法の従前の議決権制限株式の株主も商法に別段の定めがある次の事項については議決権を有するものと解されていました。会社法に改正後の議決権制限株式についても、同様に議決権を有するものとなっています。

  • 株式交換、株式移転、新設分割、吸収分割、合併により株主に新たに株式譲渡制限の拘束が生じる場合
  • 合併により株主が有限会社の社員となる場合や人的分割により分割会社の株主が有限会社の社員になる場合

また、今回の議決権制限株式については、次の事項についても議決権が与えることとします。

  • 定款に株式譲渡制限の定めを設ける場合

このように、議決権制限株式のうちの完全無議決権株式においても会社法の別段の定めにおいて議決権が与えられています。

(2)税法上においても議決権制限株式は1株当たりの株式評価額を計算する場合、発行済株式総数に含めます。

(3)対策上の種類株式の注意点

  • 議決権制限株式としてください。
  • 配当については、優先株式、普通株式のどちらかでもいいです。

このような株式については、税務上も従前の議決権制限株式を1株当たりの株式評価額の計算上、発行済株式総数に含められるものと考えます。

流れ
《ステップ1》社員持株会を設立する
《ステップ2》会社は株主割当増資を実施する
新株は議決権制限権株式とする
《ステップ3》株主は社員持株会へと売却する
売却価額は配当還元価額とする
《ステップ4》1株当たりの純資産価額の株価が下がる
《ステップ5》オーナーの所有する株式財産額が下がる



3.新株の割当価額をどうするか

3-1.第三者割当増資の有利な発行価額による割当

同族会社が、増資を行う場合、旧株主の持株割合が変動するときには課税問題が生じます。

株主割当のように新株引受権が株主たる地位に基づいて旧株主に平等に割り当てられた場合には、旧株主の持株割合が変動しませんから課税関係は生じません。

一方、株主たる地位に基づかないで、つまり社員としての地位に基づいて第三者割当として「有利な発行価額」で割り当てられた場合は、税務上新株の引受人に課税問題が生じます。

ただし、その発行価額が「時価」であれば、旧株主の持株割合が変動しても、各株主の資産割合は変動しませんから課税問題は生じません。

したがって、第三者割当増資にあっては、その発行価額が時価以下であれば、贈与税または所得税の課税問題が生じます。

①時価以下の有利発行価額による第三者割当増資の個人株主の課税関係

第三者割当増資の発行価額が時価以下の金額であり、その発行の目的が給与・賞与または退職金の支給に代えて付与される場合には、時価と発行価額の差額は、給与所得または退職所得になります。

それ以外の発行目的の場合には、その新株の割当先によって課税関係が異なります。

イ.株主の親族の場合

割当先である株主の親族等は、旧株主から新株引受権の贈与を受けたものとみなされ、贈与税が課税されます。

なお、親族等とは、次の者をいいます。

(ⅰ)株主の親族(配偶者、六親等内の血族、三親等内の姻属)
(ⅱ)株主である個人の使用人及び使用人以外の者でその個人から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているものならびにこれらの者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの
(ⅲ)株主とまだ婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者及びその者の親族でその者と生計を一にしているもの(同棲期間が2年以上に至る場合は、法的な内縁関係とみなされ損害賠償等の責任が生じることがあります)

ロ.親族以外の場合

割当先が株主等の親族等でない場合は、時価と発行価額との差額である経済的利益に対して、一時所得として、所得税が課税されます。

② 新株発行法人の株式の時価

新株の第三者割当増資は発行法人の株式の「時価」を発行価額としなければ、課税問題が生じます。ですから、発行法人の株式の時価を決めなければなりません。

非上場株式の時価は、所得税法上明らかな定めはありませんが、通常新株引受権を取得する権利の価額(時価)を定めた通達によることになります。

イ.売買実例のあるもの…最近において売買の行われたもののうち、適正と認められる価額

ロ.売買実例のないものでその株式等を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式等の価額があるもの…当該価額に比準して推定した価額(注:類似会社比準価額のことです)
ハ.上記イ.ロに該当しないもの…払込期日または同日にもっとも近い日におけるその株式等を発行する法人の1株当たりの純資産
価額等を参酌して通常取り引きされると認められる価額

このハ.は相続税財産評価基本通達178から189-7までの「取引相場のない株式」の評価の例により算定した価額としました。

具体的には、次のようになります。

(ⅰ)「同族株主」に該当するかどうかは、株式等を譲渡または贈与した直前の保有株式数によって判定します。つまり、保有株式数が減少した状態でもって同族株主かどうかの判定は認められません。
(ⅱ)株式等を譲渡または贈与した個人が「中心的な同族株主」に該当するときは、その株式を発行する会社はつねに「小会社」に該当するものとして評価します。

原則として、純資産価額方式による評価とし、類似業種比準価額の株価の0.5(Lの割合0.5)とする併用方式との選択も可とする評価ということです。

(ⅲ)株式の発行会社が保有する土地等または上場有価証券については、純資産価額の計算上、譲渡時等の「時価」によります。

(ⅳ)純資産価額の算定に当たっては、時価と簿価との評価差額に対する法人税等に相当する金額は控除しないで計算します。

3-2.社員持株会の会員へ割り当てた株式の時価

同族会社において、非親族である第三者に新株を割り当てたときの「時価」をどのように考えるかという問題があります。

通常、第三者間の取引きは、種々の経済性も考慮して、かつ合理的に判断されて価額が決定されます。

しかし、未公開会社にあっては、株式の市場性がなく、現実に客観的な取引価額を見出すことができません。

このため、実務上の処理としては、相続税による財産評価基準によらざるを得ないというのが実情です。

そうすると、相当高額な価額となってしまいますが、未公開会社の社員等の零細な株主は、経済的には単に配当を受領するだけの権利であり、換価性として経済的価値は通達のような価額とは考えられません。

したがって、同族株主以外の株主が取得した場合の、株式の相続税評価基準の特例的評価方式である「配当還元価額」での株価が「時価」であると考えられます。

社員持株会の規約では通常、退会時での買取価額も「配当還元価額を参考にして算定する」としています。

このように、第三者割当の新株の「時価」は、新株の引受人の形態によって異なることになります。

よって、社員持株会の会員に割り当てられた新株引受権の価額は「配当還元価額」になります。これは、経済的な合理性のある価額として、税務当局も是認しています。

なお、所得税法では「発行法人の株価に比較して社会通念上相当と認められる価額を下回る価額」を、「有利な発行価額」といい、実務上は時価の90%を下回るかどうかで判定されます。

したがって、時価の90%以上であれば、時価の範囲内と考えられます。

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