生命保険金は遺留分減殺の対象となるか

生命保険金は保険契約に基づきその指定受取人である者が直接取得するものであって、受取人の固有財産ですが遺留分減殺の対象となるのでしょうか。
生命保険金は遺留分減殺の対象となるか

目次

1.遺留分とは

兄弟姉妹以外の相続人に相続財産の一定割合の承継を保障したのが遺留分制度です。(民法1028)

したがって、遺留分を有する相続人は、被相続人が相続財産の全部を第三者に遺贈しても遺留分減殺請求権を行使して財産を取り戻すことができます。(民法1031)

たとえ遺留分を侵害する遺言内容であったとしても、遺留分権利者が遺留分の減殺請求権を行使しなければ遺留分は得られませんので、ご注意ください。


2.遺留分権利者はだれか

遺留分権利者は、兄弟姉妹以外の相続人です。

したがって、配偶者、被相続人の子(代襲相続人を含みます)、直系尊属です(民法1028)。


3.遺留分の割合

直系尊属のみが相続人の場合は、被相続人の財産の3分の1です。

その他の場合は被相続人の財産の2分の1です。

遺留分権利者が複数いる場合の各人の遺留分の割合は、この割合に各相続人の法定相続分を乗じて計算することとなります。(民法1028,1044)。


4.遺留分の減殺請求とは

遺留分を主張するには、遺留分減殺請求権を行使しなければならず、何もしなかったらもちろん何も起こりません。たとえ遺留分を侵害する遺言でも、遺言内容はそのまま実行されてしまいます。

遺留分とは、遺言が実行された後に、財産の多くを取得した者に対して請求できる一つの権利なのです。

遺留分を侵害されたとしてこの請求権を行使するかしないかは、あくまで各遺留分権利者の判断に任されています。

したがって、遺留分があるからといって自動的にその分の相続財産が得られるわけではありません(民法1031)。

遺留分の減殺請求は、遺留分を侵害している相手方に口頭その他の方法でも意思表示をすればいいのですが、通常は後日のために、通知したことを証明できる内容証明郵便で行います。


4-1.遺留分減殺請求権の期間制限

遺留分減殺請求権は「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年」又は、「相続開始の時から10年」行使しないと時効により消滅します(民法1042)。


4-2.遺留分算定の基礎となる財産(民法1029)

被相続人死亡時の所有していた財産(遺贈財産を含む)の価額
+ 贈与財産の価額(注)- 債務金額

ポイント1相続開始前1年以内に贈与されたものは遺留分算定の基礎となります。(民法1030)

ポイント2遺留分権利者に損害を与えることを知っていて行なった贈与は、1年前の日よりも前にしたものも遺留分算定の基礎となります。(民法1030)

ポイント3共同相続人中に、婚姻、養子縁組のため、若しくは生計の資本として贈与(特別受益)を受けた者があるときは、その贈与の時期や遺留分権利者に損害を与えることを知っていたかどうか問わず遺留分算定の基礎となります。



5.遺留分と生命保険金について

生命保険金は保険契約に基づきその指定受取人である者が直接取得するものであって、受取人の固有財産です。

いったん被相続人の財産に帰属し、それを相続人が相続によって取得するものではありません。したがって、相続税法上は、「みなし相続財産」とされています。

では、生命保険金が特別受益となり遺留分減殺の対象となるのかという疑問が生じます。

この点については、最高裁平成16年10月29日判決で次のとおり判断が示されています。


5-1.原則

「養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又は取得した死亡保険金は、民法903条1項(特別受益)に規定する遺贈又は贈与に係わる財産には当たらない。」と解するのが相当としています。したがって、遺留分減殺の対象になりません。


5-2.例外

「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が、民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存在する場合には、同条の類推適用により特別受益に準じて持戻しの対象となる。その特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」と判示しています。

6.結論

原則としては遺留分減殺の対象となりません。

しかし、特段の事情があれば、死亡保険金請求権又は取得した死亡保険金が遺留分減殺の対象となります。

特段の事情

①保険金の額
②保険金の額の遺産総額に対する比率
③同居の有無
④被相続人の介護等に対する貢献の度合いなど
⑤保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係
⑥各相続人の生活実態等の諸般の事情

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