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グループ法人税制の活用手段
【目次】
1.まず押さえること
株式の評価額を下げる節税にあたっては、以下の点を十分に考慮しなければなりません。
1-1.法人の課税問題をクリアにする
株式の評価額を下げるためには、法人の資産を移転するなどの措置が必要になりますが、資産の移転に伴って、法人税の課税問題が生じます。ここをクリアできなければ、株式の評価額は下がったものの、法人税の負担に悩むという本末顛倒な結論になります。
1-2.株主の課税問題をクリアする
個人株主が保有する取引相場のない株式の評価額を下げる必要性がありますので、スキームを実行することにより、個人株主にどのような課税問題が生じるのか考慮する必要があります。
つまり、法人と個人の課税関係を考えながらスキームを組む必要があるのです。
2.対象法人の子会社の活用を視野に入れる
グループ法人税制は、自社株対策が必要な対象法人の子会社に活用できます。この理由は、大きく2つあります。
2-1.「法人による」完全支配関係の意義
グループ法人税制の活用上、最もインパクトが大きいのは寄附金と受贈益の取扱いと思われますが、こちらの活用に当たっては、法人を頂点とする必要があります。少なくとも株主を法人にしない限り、グループ法人税制の特典を受けることが難しいです。
2-2.法人税のカテゴリーの改正
グループ法人税制は、法人税に止まる、いわば、法人株主を前提とした制度設計となっていますので、株主は法人とすべきです。
3.行為計算否認規定の対策
グループ法人税制を対象とした行為計算否認規定は設けられていません。これは、完全支配関係がある以上、同族会社に該当するわけですから、従来の同族会社の行為計算否認(法法132)や組織再編成税制(法法132 の2)の枠組みで解決できると考えられているのかもしれません。
しかし、グループ法人税制はその対象法人が非常に多くなるため、ストレートに従来の行為計算否認規定を適用することが難しいケースも多いと想定されます。
このため、グループ法人税制を対象とした行為計算否認規定も必要ではなかったか、と考えられます。
もちろん、濫用的なスキームであれば、行為計算否認規定が存在しないとは言っても税務当局は否認することになりますので、取引の理由づけ等、行為計算否認規定が適用されることを前提とした対応が必要になります。
4.具体的に考えられるスキームと効果及びリスク
4-1.対象法人の孫会社の設立と40%控除の有効活用
まず考えられるスキームは、対象法人の孫会社を活用して法人税の控除額を引き上げると言うスキームです。
これは、
①グループ法人税制の創設により財産評価基本通達186‐2 の改正が行われていないこと
②寄附金と受贈益の取扱いにおける投資簿価修正が直接の株主にしか及ばないこと
に着目したスキームです。
<全体像と効果>
※ 対象法人の状況(A 社)
現金 200 (200)
その他 10,000(11,000)
純資産 10,200(11,200)
上記の場合、A社の株価は純資産方式によれば、
11,200-(11,200-10,200)×40%=10,800
と評価されます。
ここで、A社の現金200 を出資して、B社を設立し、B社がその200 のうち100 を活用してC社を設立するとします。
この場合、A社の株価は従来と同様10,800、B社は200、C社は100 と評価されますが、A社が保有するその他の資産(譲渡損益調整資産に該当するものとします)をC社に寄附することを考えてみます。
この場合、税務上は以下の仕訳となります。
A社
寄附金 11,000 その他の資産 10,000
譲渡損益調整 1,000
B社 C株 11,000 利益積立金 11,000
C社 その他の資産 11,000 受贈益 11,000
A社においては、譲渡益をいったんは認識するものの、譲渡損益調整資産の調整規定により、その繰延べが認められます。
反面、この取引は無償による資産の贈与になりますので、寄附金にも該当します。
この寄附金については、A社という法人を頂点とした完全支配関係のあるC社に対するものですから、全額損金不算入となります。
その一方、C社は寄附金と同額の受贈益を認識し、その受贈益は益金不算入となります。
C社の直接の株主であるB社は、そのC社株式の簿価を修正することになりますが、その金額は受贈益に持分割合を乗じた金額となります。
以上を踏まえると、寄附をすることになる資産が譲渡損益調整資産に該当する限り、この取引においては課税関係は生じないと考えられます。
この場合、個人株主が保有するA社株式の評価額は、
11,200(B社株式の時価)-(11,200-200)×40%=6,800
となります。
直接の株主のみが投資簿価修正を行うため、B社株式の簿価は低いままなのです。
このため、法人税等の控除額がアップするという仕組みなのです。法人税等の控除の規定は、相続税や贈与税における評価額計算で認められていますので、譲渡所得税の計算においてはこのスキームは活用できません(所基通59‐6)。
これと似たスキームとしては、現在は封じ込められたA社B社方式があります。A社B社方式は、現物出資を活用したスキームであるのに対し、本スキームは通常の出資で可能になるスキームです。
現物出資は実務上それほど多く使われているものではありませんので、作為性が高いと判断されますが、金銭出資は一般的な会社設立手段ですので、それほど作為性が大きいとは言えません。
こういう意味で、A 社B 社方式に比べれば、相対的に税務リスクは低いと考えられます。
<スキームのリスクとリスクヘッジ>
このスキームですが、否認するとすれば、相続税法における同族会社の行為計算否認(相法64①)か財産評価基本通達総則6項の適用です。
望ましい対策としては、
・A社、B社、C社それぞれにビジネス上の機能を付与すること
節税のために会社を作ると判断されることが一番問題なのですから、それぞれにビジネス上の機能を持たせることが必要になります。
とりわけ、グループ税制の適用上は対象法人の子会社さえあれば大丈夫ですので、孫会社(C社)で事業を行う理由、子会社(B社)の機能には、十分に注意しておく必要があります。
・C社設立のタイミングを遅らせること
グループ法人税制を活用するために、子会社を作ることは「不当」と評価されることはないと考えます。
既に述べた通り、株主は法人とする、すなわち子会社を作らなければグループ法人税制の特典を十分に受けられる構造に現行制度はなっていないからです。
節税をシンプルに打ち出すと確かに否認されるリスクはありますが、このような主張は決して不合理ではないと考えます。
この観点に立っても、やはり問題になるのはC社であり、A社とB社だけでグループ法人税制の適用はあるわけですから、何故C社を作るのか、合理的な説明が必要と考えます。
最も都合がいいと考えられるのは、B社を設立した後、時間をおいて(少なくとも、税務署の目に止まりにくいように事業年度を別にして)C社を設立するということでしょう。
こうすれば、税務署の目にも止まりにくいですし、何より「B社の機能を補完する」という目的でC社を設立した、という抗弁もできると思います。
その他、寄附する財産は譲渡損益調整資産でない限り、譲渡損益に対する課税が生じますし、譲渡損益調整事由に応じて、譲渡法人で譲渡損益の認識を行う点に注意が必要です。
4-2.自社株贈与等の活用
グループ法人税制においては、完全支配関係法人間における自社株の譲渡につき、課税関係を生じさせないという仕組みがとられています。この点と、現物分配を活用することが考えられます。
今回の改正により、個人による完全支配関係が広く認められ、シンプルな譲渡という取引で資産を移転できますから、受贈益課税の問題さえクリアできれば、かなり広範囲に活用ができるのではないか、と考えます。
資産の譲渡は普通に行われることですので、理由づけさえしっかりしていれば、同族会社の行為計算否認が適用されるハードルを従来よりも大きく引き上げることができると考えます。
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