派遣法改正による内部留保対策

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1.派遣法の改正

派遣法の改正により、施行日(平成 27 年9月 30 日)以降、特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業の区別は廃止され、すべての労働者派遣事業は、新たな許可基準に基づく許可制となりました。

経過措置

  • 施行日時点で届出により特定労働者派遣事業を営んでいる方
    平成 30 年9月 29 日まで、許可を得ることなく、引き続き「その事業の派遣労働者が常時雇用される労働者のみである労働者派遣事業」(改正前の特定労働者派遣事業に相当)を営むことが可能です。
  • 施行日時点で許可を得て一般労働者派遣事業を営んでいる方
    現在の許可の有効期間内は、その許可のままで、引き続き労働者派遣事業を営むことが可能です。
  • 施行日前に許可・更新の申請を行った方
    施行日前にした許可・更新の申請で、施行日時点でまだ決定がなされていないものは、改正後の法律に基づく申請として扱われるため、施行日後に改めて申請を行う必要はありません。

上記のような経過措置が設けられています。

2.新たな許可基準とは

新たな許可基準として下記の基準がありますが、問題となるのは、一事業所あたり内部留保2,000万円、現預金1,500万円という基準だと考えられます。

○ 専ら労働者派遣の役務を特定の者に提供することを目的として行われるものでないこと

○ 派遣労働者に係る雇用管理を適正に行うに足りる能力を有するものとして次に掲げる基準に適合するものであること
・ 派遣労働者のキャリア形成支援制度を有すること
・ 教育訓練等の情報を管理した資料を労働契約終了後3年間は保存していること
・ 無期雇用派遣労働者を労働者派遣契約の終了のみを理由として解雇できる旨の規定がないこと。また、有期雇用派遣労働者についても、労働者派遣契約の終了時に労働契約が存続している派遣労働者については、労働者派遣契約の終了のみを理由として解雇できる旨の規定がないこと
・ 労働契約期間内に労働者派遣契約が終了した派遣労働者について、次の派遣先を見つけられない等、使用者の責に帰すべき事由により休業させた場合には、労働基準法第 26 条に基づく手当を支払う旨の規定があること
・ 派遣労働者に対して、労働安全衛生法第 59 条に基づき実施が義務付けられている安全衛生教育の実施体制を整備していること

キャリア形成支援制度

1 派遣労働者のキャリア形成を念頭に置いた段階的かつ体系的な教育訓練の実施計画を定めていること。

○ 教育訓練計画の内容
① 実施する教育訓練がその雇用する全ての派遣労働者を対象としたものであること。
② 実施する教育訓練が有給かつ無償で行われるものであること。(4の時間数に留意)
③ 実施する教育訓練が派遣労働者のキャリアアップに資する内容のものであること。
(キャリアアップに資すると考える理由については、提出する計画に記載が必要)
④ 派遣労働者として雇用するに当たり実施する教育訓練(入職時の教育訓練)が含まれたものであること。
⑤ 無期雇用派遣労働者に対して実施する教育訓練は、長期的なキャリア形成を念頭に置いた内容のものであること。

2 キャリア・コンサルティングの相談窓口を設置していること。
① 相談窓口には、担当者(キャリア・コンサルティングの知見を有する者)が配置されていること。
② 相談窓口は、雇用する全ての派遣労働者が利用できること。
③ 希望する全ての派遣労働者がキャリア・コンサルティングを受けられること。
3 キャリア形成を念頭に置いた派遣先の提供を行う手続が規定されていること。
・ 派遣労働者のキャリア形成を念頭に置いた派遣先の提供のための事務手引、マニュアル
等が整備されていること。
4 教育訓練の時期・頻度・時間数等
① 派遣労働者全員に対して入職時の教育訓練は必須であること。キャリアの節目などの一定の期間ごとにキャリアパスに応じた研修等が用意されていること。
② 実施時間数については、フルタイムで1年以上の雇用見込みの派遣労働者一人当たり、毎年概ね8時間以上の教育訓練の機会を提供すること。
③ 派遣元事業主は上記の教育訓練計画の実施に当たって、教育訓練を適切に受講できるように就業時間等に配慮しなければならないこと。
・ 雇用安定措置の義務を免れることを目的とした行為を行っており、都道府県労働局から指導され、それを是正していない者ではないこと

○ 個人情報を適正に管理し、派遣労働者等の秘密を守るために必要な措置が講じられていること

○ 事業を的確に遂行するに足りる能力を有するものであること
・ 資産の総額から負債の総額を控除した額(基準資産額)が「2,000 万円×事業所数」
以上、現預金額が「1,500 万円×事業所数」以上であること
※小規模派遣元事業主の暫定的な配慮措置
・1つの事業所のみを有し、常時雇用している派遣労働者が 10 人以下である中小企業事業主
→当分の間、基準資産額:1,000 万円、現預金額:800 万円
・1つの事業所のみを有し、常時雇用している派遣労働者が5人以下である中小企業事業主
→平成 30 年9月 29 日までの間、基準資産額:500 万円、現預金額:400 万円
・ 事業所の面積がおおむね 20 ㎡以上であること 等



3.役員からの借入金がある場合

個人でお金に余裕がある場合には内部留保を基準資産額(2,000 万円×事業所数)になるまで金銭出資により増資をすればいいのですが、個人でお金がない、出資をしてくれる人を探すというのは現実的には難しいと思います。

その場合、デット・エクイティ・スワップという方法により役員個人が会社に貸しているお金を株式化することにより、内部留保を厚くすることができます。

デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity swap)とは、文字どおりデット(債務)とエクイティ(資本)をスワップ(交換)することをいいます。簡単にいうと、デット・エクイティ・スワップとは債務の資本化であり、債務と交換に株式を発行することをいいます。

債権者からみた場合は、 債権の株式化ということができ、債権者である役員個人の貸付金が株式となるわけです。

債務者にとっては、過剰債務を減らし財務体質を健全化できるというメリットがあります。一般的には有利子負債の減少による金利負担の軽減により、再建を行うためのスキームとして利用されます。

債務が消滅し、資本が増加することにより、債務超過の解消という効果が生じることもあり、派遣業の許可基準である基準資産額(2,000 万円×事業所数)を満たすための方法として有効です。

一方、債権者にとっても、債権の全部または一部を全面的に放棄しないで、その一部を株式に交換することによって、将来、再建計画が成功し、株式の価値が上昇したときに、キャピタルゲインを得ることが可能となります。

同族会社の未上場株式は売却が難しいのでキャピタル・ゲインを得るという目的でDESを行うことはありませんが、同族会社においては、オーナーが運転資金等を会社に貸し付けているケースでは、会社に対する貸付金を保有したまま相続を迎えると、相続財産評価において額面金額による評価となるため、貸付金を会社に対して現物出資し、対価として株式の交付を受けることにより、相続財産評価が下がる効果が生じることから利用されているケースもあります。基準資産額を満たすことができ、相続財産の評価額を下げることができる方法がデット・エクイティ・スワップなのです。


3.現物出資方式と新株払込方式

会社に対する債権を現物出資することにより、債権と株式を交換するのがデット・エクイティ・スワップの一般的な方法であり、これを現物出資方式と呼びます。

この現物出資方式とは別に、債務者が第三者割当増資を行い、債権者から払い込まれた増資資金を借入金の返済のために債権者に支払う方法があります。この方法を新株払込方式という(擬似DESといいます。)

新株払込方式の場合、株式の払込みと債権の弁済というそれぞれの行為が別々に行われるため、原則として、税務上の問題は生じないとされています。

一方、現物出資方式だと回収可能性を疎明できないと、債務消滅益が発生する可能性がゼロではありません。そのため、実務上新株払込方式により行ったほうが安全だと思います。

新株発行で増加する資本等の金額は、「払い込まれた金銭の額及び給付を受けた金銭以外の資産の価額」とされるため、 DESで自己の債務を現物出資で受け入れて発行する場合、債務者側でも債務の時価で資本等の金額を認識することになります。つまり、 DESの債務者側の処理は債権の額面ではなく、債権の時価となるため、 DESが行われると債務消滅益が計上されることがあるのです。

新株払込方式の方が安全といっても、新株払込方式を利用する目的が、租税負担を減少させる目的のみにおいて意図されており、金銭出資とその払込みによる資金による債務の返済が当初から計画された一体の取引であると認定される場合、現物出資方式を利用した場合との課税の公平の観点から、行為計算否認規定により否認される可能性もないとはいえないため、スキーム実行前には慎重に検討しましょう。



4.現物出資により内部留保を増やす方法

金銭出資できない、役員からの借入金がないためデット・エクイティ・スワップもできない、という場合には現物出資という方法が考えられます。

不動産や株式などの現物を会社に入れるという方法です。

現物出資者が個人の場合、受け入れた株式の時価を譲渡収入とします。現物出資は、資産を提供して株式を取得する行為だからです。



4-1.出資者の税務

現物出資するものが不動産である場合、会社に売却した考えますので、譲渡所得税が出資者にかかります。

税率は

出資価額 – 購入価額の20.315%(長期保有の場合)

となります。



4-2.法人の税務

出資を受ける法人は、出資を受けたことを登記しなければいけません。そのために必要なコストはおおよそ下記のとおりです。

  • 司法書士手数料 約10〜15万円
  • 不動産鑑定料 約30〜50万円(不動産の場合は不動産鑑定が必要です。)
  • 資本金登録免許税 増加資本金の0.7%(登録免許税が高くなるため、資本金と資本準備金で2分の1ずつとするのが一般的です。)
  • 不動産流通税 登録免許税、不動産取得税として固定資産税評価額の5%

コストはかかりますが、派遣事業許可の基準を満たしておらず、現物出資できる不動産や株式がある場合には検討に値するかと思います。

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