相続開始前の現金引出が相続財産と認定されなかった事例

相続開始前の現金引出が相続財産と認定されなかった事例

目次

名義預金・名義株は相続調査で問題とされやすい

相続人名義の預金や有価証券等の金融商品が相続財産を構成するかどうか、いわゆる名義預金や名義株などは、相続税調査の際に最も問題になりやすいです。

その多くはその預貯金等の原資・管理・運用の状況から過去に贈与されたものか、名義のみ借りた相続財産か否かの判断を必要とします。

1.名義財産(相続財産)か贈与財産かの判断

  • 被相続人以外の名義の財産でも、その財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったと認められれば、その財産は、相続税の課税対象、つまり被相続人の財産とされてしまいます。
  • 名義財産となる(相続財産に取り込まれる)かどうかは、その原資がだれのものか、取引や口座開設の意思決定やその手続をだれが行っているか、その管理又は運用による利得を収受していたのがだれか、といった点から判断されます。
  • 名義財産ではなく、過去に贈与を受けたものであると判断する場合は、いつの時点でどのように贈与が行われたかが大きなポイントです。贈与を受けたものであれば、相続財産に取り込まれません。


2.相続開始前の現金引出が相続財産と認定されなかった事例

平成20年4月8日の裁決では、平成13年から平成15年までの間の出金に係る現金について贈与税の決定処分等をしましたが、生前贈与をした事実がないとして、贈与税の決定処分が取り消され、相続財産への加算もありませんでした。なぜ贈与とはされず、相続財産への加算もなかったのでしょうか。


3.裁決の要旨

国側は相続人の亡母の生前における亡母名義の普通預金等からの高額な出金のうち、その使途が明らかでないものについては、亡母 に代わって出金手続を行っていた相続人と亡母の間に、その出金の前に現金の贈与についての合意があったと推認できるとして、平成13年から平成15年までの間の出金に係る現金について贈与税の決定処分等をしたのに対し、請求人が、そのような贈与の事実はなかったとして原処分の全部の取消しを求めた事案です。


4.贈与の意義

贈与の意義については、相続税法上明確な定義はなく、民法第549条に規定する贈与をいうものとされています。

そして、同条においては、贈与の効力は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方がそれを受諾することによって生ずる旨を規定しています。


5.国側の主張

国側は、相続人が現金を各預金口座から引き出した理由は、被相続人と相続人との合意の下に、現金を被相続人から相続人に贈与するためであって、相続人が現金を引き出す前に被相続人と相続人との間で贈与契約が成立し、相続人が現金を引き出して占有した時点で現金の贈与が履行されたものと解するのが相当であるから、贈与があったと主張しました。


6.事実関係のまとめ

  • 被相続人は、単独での外出は不可能で現金を自分で持ち出すことはできない状態であった
  • 被相続人は、死亡直前まで頭はしっかりしていた
  • 平成11年3月から、居宅において被相続人を介護するために相続人らのうち請求人(贈与があったと決定処分を受けたかたです。)のみが被相続人と同居していた
  • 請求人は、被相続人に代わり銀行に赴き、各預金口座から現金を引き出していた
  • 各証券会社の取引担当者が被相続人との取引のため、居宅を訪問したときは、ほぼ請求人が同席していた
  • 被相続人の生活費等の支出状況からみると、生活費のために1 回当たり10,000,000円を超える本件現金を引き出す必然性がない
  • 各証券会社の被相続人名義の口座には本件高額不明出金に相当する入金が見当たらない
  • 請求人は、「被相続人は生前、同人の財産はすべて請求人にくれる旨話していたし、被相続人の財産を私がどうしようと勝手である。」と請求人が本件現金について何らかの処分をしたことを示唆するような申述をしていることからすると、請求人は本件高額不明出金に関する事情を承知していることが疑われました。


7.結論

現金又は現金が化体した財産の相続開始日における存在ないし請求人による費消の事実の有無が明らかではなく、これらのことのみでは、被相続人と請求人との合意の下に、被相続人から請求人に対する贈与を目的として現金が各預金口座から引き出されたとまで認めることはできないとされました。

また、被相続人は既に死亡しており、同人から釈明、答述を求めることは不可能であり、かつ、審判所に提出された全資料を総合し、さらには上記のとおり、審判所において調査した結果によっても、同人から請求人に対する現金を贈与するという意思表示及び請求人の受諾があったことを客観的に証明し得る証拠の存在は認められないとされました。

そうすると、被相続人と請求人との間に贈与の効力が生ずべき意思表示及び受諾があったとは認められないので、被相続人が請求人に対し現金の贈与をしたとする事実を認めることはできず、原処分庁の主張には理由がないものと判断せざるを得ないとして、贈与税の決定処分が取り消され、相続財産への加算もありませんでした。

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