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グループ法人税制の全体像


【目次】

グループ法人税制には、いろいろな制度が設けられています。グループ法人税制の各種規定のうち、取引相場のない株式の節税上押さえておくべき規定について、ご説明いたします。

グループ法人税制で大事なのは、その規定が課税の繰り延べなのか非課税なのか、という点です。

課税の繰り延べ場合、出口戦略に伴うリスクを考慮しつつスキームを検討する必要があります。

1.対象法人

グループ法人税制の対象となるのは、完全支配関係のある法人です。
簡単に言えば、100%グループ内の法人をいいます。

親子会社はもちろん、兄弟会社も親と孫会社も100%グループ内であればこの制度の対象になるわけです。100%グループの判定上、注意いただきたいのは以下の3点です。


1-1.株主が個人の場合、その同族関係者も含めて判断すること

株主が個人であれば、その同族関係者も同一の株主と判断されることになります。

このため親と子がそれぞれ100%株主である二つ以上の会社は完全支配関係があると判断されますし、親と子が相互に50%ずつ株式を保有するような二つ以上の
会社も、完全支配関係があると判断されることになります。

グループ法人税制は連結納税のような承認をベースに適用関係が定められておらず、強制的に適用がなされるわけですから、個人が株主になるケースについても十分に注意をしなければならないことになります。

とくに、個人による完全支配関係は非常に解釈上疑義が大きな部分でもあり、そのリーガルリスクをきちんとヘッジする必要があります。


1-2.「法人による完全支配関係」との区分

グループ法人税制は、「法人による完全支配関係」に限り適用がある、という規定も設けられています。非常にあいまいな用語ですので、解釈もなかなか難しいのですが、「法人による」というのは、法人を頂点とする完全支配関係をいうこととされています。

「完全支配関係」と「法人による完全支配関係」は、その内容が異なっているという点です。似た用語なので、つい読み飛ばしてしまう可能性がありますが、この解釈の違いにより適用関係が大きく異なるケースがありますので、注意が必要です。


1-3.持株会と5%ルール

完全支配関係の判定上、5%ルールという規定があります。完全支配関係とは100%保有が条件となっていますが、組合方式による従業員持株会がある場合などについては、その保有割合が5%未満であれば、その保有株式については完全支配関係の判定上、発行済株式から除くという規定があります。

このため、このような従業員持株会を設けていたとしても、完全支配関係の判定においては、影響がないのです。

ただし、この5%ルールが適用される従業員持株会については、証券会社方式は該当するものの、信託銀行方式によるものは該当しないとされていますので、注意が必要です。

従業員持株会は取引相場のない株式の節税上、大きな影響があります。


2.譲渡損益の繰延べ

完全支配関係のある法人間の譲渡損益の繰延べという制度が設けられています。

この制度は譲渡損益調整資産を譲渡した場合、その譲渡法人で譲渡損益を繰り延べるとともに、譲受法人において譲渡や償却のような事情が生じたときに、その繰り延べた譲渡損益を計上するという制度です。

問題になる譲渡損益調整資産ですが、固定資産、土地、有価証券、金銭債権及び繰延資産で、以下のようなものを除くとされています。

・ 売買目的有価証券
・ 譲受法人で売買目的有価証券とされる有価証券
・ 譲渡直前の帳簿価額が1千万円未満の資産

簿価が1千万円超の譲渡損益調整資産を無税により移転できるわけではない、ということです。

例えば、A社(譲渡法人)が有する時価3千万円(簿価2千万円)の土地を完全支配関係にあるB社(譲受法人)に無償で移転するとした場合、以下の仕訳となります。

(A社)
(借方)寄附金 3千万 (貸方) 土地 2千万
繰延譲渡損益 1千万

(B社)
(借方)土地 3千万 (貸方)受贈益 3千万

法人税法の考え方により、あくまでも取引は時価で行う必要があるわけで、かつ損益を繰り延べることができるのは譲渡法人だけですので、法人による完全支配法人間の寄附金の取扱いがない限り、譲受法人には課税問題が生じるわけです。

資産を減らせるので取引相場のない株式の評価額を減らせる、と思っても、法人税の税負担が大きくなる可能性がありますので、十分に注意しなければなりません。


3.法人を頂点とする100%グループ間の寄附金

グループ法人税制の趣旨は、グループ経営という企業活動の実態を法人税制に反映するというものであるところ、この趣旨を踏まえれば、完全支配関係法人間の寄附については、内部取引として課税関係を生じさせない、ということになります。

この制度が、100%法人間の寄附金の損金不算入と受贈益の益金不算入です。

注意点は、この制度は「法人による完全支配関係」に限り、適用があるという点です。

つまり、法人が頂点でなければこの制度の適用はありません。

「法人による完全支配関係」に限定している理由は、取引相場のない株式の節税を防ぐためにあります。

例えば、父親が株式を100%持つA社が、その財産をすべて息子が100%保有するB社に寄附したとすれば、A社の株価はゼロになる一方、B社の株価はその財産分大きくなります。

この場合、本制度の適用があるとすれば、法人税の負担がなく無償で株価が父から子に移転するわけで、贈与税や相続税を簡単に節税できることになります。

このようなことのないよう、贈与税や相続税の問題がない法人を頂点とする完全支配関係に限定しているのです。

その他、この制度の対象となる寄附が行われた場合、その寄附をした法人の株主と寄附を受けた法人の株主において、投資簿価修正を行う必要があります。

投資簿価修正を行うのは、直接の株主だけであり、例えば孫会社がこの制度の対象となる寄附を親会社に対して行っても、孫会社の株主である子会社が孫会社株式の簿価を修正するだけであり、親会社は子会社株式の簿価を修正する必要はありません。


4.非適格株式交換等の特例

非適格株式交換及び非適格株式移転については、株式交換完全子法人又は株式移転完全子法人有する時価評価資産の評価損益の計上が必要ですが、完全支配関係のある法人間で行った株式交換及び株式移転については、時価評価の対象にならないとされています。

グループ法人税制の趣旨として、完全支配関係にある法人は同一に考えますから、その適用上は、非適格株式交換等に該当する場合であっても、株式交換完全子法人に課税関係を生じさせないというのがその趣旨です。

なお、この規定については、「適格になるのではなく、時価評価課税の対象外とされるのみであることに留意が必要です。」と説明されています。

気になるのは、この場合の完全子法人株式の評価額です。これについては、金銭等不交付株式交換等であれば、簿価純資産ベースによる計算が認められる反面、金銭等交付であれば、時価ベースによって計算する必要があります。このため、金銭等交付であれば、株主の課税問題が生ずるわけです。


5.発行法人に対する株式の譲渡と受取配当不算入

完全支配関係のある法人間において、株式を発行した法人(発行法人)にその発行法人の株式を譲渡しても、譲渡損益を認識しないこととされています。

つまり、完全支配関係下にある法人間において自己株式を取得したとしても、譲渡損益を認識する必要はないこととされているのです。

「自己株式の取得」である以上、みなし配当の規定は適用されますが、配当の計算期間中継続して完全支配関係にある法人間では、受取配当は負債利子控除をする必要はなく、全額が益金不算入となります。

その他、認識されない譲渡損益に相当する部分は、発行法人に株式を譲渡する譲渡法人の資本金等の額を調整することとされています。


6.適格現物分配

平成22 年度改正においては、現物分配が組織再編成税制の一環として整理されました。現物分配の課税については、資産の譲渡と剰余金の分配という二つの側面があります。

(※)現物分配に伴う仕訳
現物分配法人
(借方)配当 ××× (貸方) 資産 ×××
    譲渡益×××

被現物分配法人
(貸方)資産××× (貸方)配当金 ×××

この点につき、平成22 年度改正は現物分配を、課税関係が生じない適格現物分配と、そうではない非適格現物分配にわけて規定しています。

前者については、現物分配法人の現物分配対象資産の帳簿価額を被現物分配法人に引き継ぐという課税関係が規定され、後者については移転時において時価課税が現物分配法人に生じる旨が規定されています。

ここで、注意点ですが、適格現物分配に該当するのは、完全支配関係のある内国法人間(普通法人及び協同組合のみです。)に限定される、ということです。

これは、課税方式の違う法人について、安易に課税の繰延べを認めないという考え方から来ています。


7.活用のポイント

グループ法人税制は、法人税の節税に非常に幅広く活用できます。

典型例は、法人間の寄附です。株式交換や株式移転により、頂点を法人とすれば、赤字会社と黒字会社の利益の付け替えが簡単にできます。

一点、ご注意いただきたいのは、平成22 年度改正において受贈益に関する規定が創設されたことにより、無償の役務提供を受ける行為が益金算入の対象になりました。

従来は、無償の役務提供を行う行為によって益金が生じ、受ける側には課税は生じていなかったのですが、それとは真逆の解釈が公表されたわけです。

この点については、国税庁の通達においても、「内国法人が、当該内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人から、例えば、金銭の無利息貸付け又は役務の無償提供などの経済的利益の供与を受けた場合には、支払利息又は役務提供の対価の額を損金の額に算入するとともに同額を受贈益の額として益金の額に算入することとなる」とされています(法基通4―2―6)。

このため、法人を頂点とした完全支配関係下にある赤字法人が黒字法人に無利息貸付けを行うこととすれば、以下の通り所得が移転します。

※ 受けるべき利息が1千万円の場合

(赤字法人)
(借方) 寄附金 1千万円 (貸方) 受取利息 1千万円

(黒字法人)
(借方) 支払利息 1千万円 (貸方) 受贈益 1千万円

上記の場合、赤字法人には1千万円の受取利息が計上される一方で、寄附金は全額損金不算入となります。

一方、黒字法人においては受贈益が益金不算入となりますから、支払利息分、課税所得が減ることになるわけです。

その一方で、取引相場のない株式の節税については、上記寄附金の制度について、「法人による完全支配関係」という制限がかけられていますので、節税のためにストレートに活用することが難しいです。

このため、この制度を活用するとする場合、様々な点を考慮する必要があります。

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